第39話 外伝 終幕 『月の輝く夜に・・』①
文字数 1,570文字
『魔月』と結託したシュメリアとの争いは、いつしか全ての周辺諸国を巻き込む大戦となった。
特にミタンとの戦いに於いては両国に癒すことの出来ない爪跡を残して、曾ての祖を同じくする兄弟国は最大の敵となったまま国交は断絶した。
その中でも特に有名なのが、第二次『月の神殿の戦い』、或いは今日でいう『禁断の塔の戦い』だ。闇の中で再び勢力を盛り返した『魔月の神殿』を巡って、シュメリア・ミタン双方が壮絶な戦いを繰り広げた。
そして遂にミタン軍が神殿の本丸になだれ込んだ時に、シュメリア側が地階の大量の干し草に火を放ち、神殿は一転して焼炎地獄と化した。
その複雑に入り組む逃げ場のない迷路の中で、幾多の戦いを戦った勇敢な戦士達がその最期を迎えた。ペル王の七勇士の一人、ダシュンもそのひとりだった。
そして、カンもその戦いで死んだ。彼の最期についてはこんな目撃談が残っている。
義足のカンは司令官として作戦本部にいた。兵士達が全員『月の神殿』内に入った時、突然、何か重要なことでも思い出したように、自らも急いで神殿の中に入って行った。
その神殿内では既に火の手が上がっていた。カンは兵士達に最地下の洞窟まで降りるように大声で指示を出した。
助かった兵士達の殆どは、彼の指示に従ってその洞窟、『月の泉』まで下りた者達だった。
しかし、カン自身は戦闘の一番激しい場所で壮絶な戦いの末、倒れた。
敵の武将達に囲まれたその義足に舐めるようにして地階から立ち上って来た火がついた。段々燃えて短くなる義足・・その火がジワジワと身体に上ってくる。
その顔自体が炎のように赤くなり、手にする太刀は『レニの谷』の刀鍛冶が打ち据える焼けたばかりの鋼のように赤く光っている。
周りの敵将が一斉にカンの身体を槍で突いた。カンはその槍の一つに、最後の力を振り絞って赤いレニの剣を打ち落とそうとした。
「・・よみ・・がえ・・」
しかしカンの体に突き刺さった七本の槍は、既に彼の生命を奪っていた。それからすぐに炎が彼の身体を包んだ。
カンの生命を瞬時に奪った七本の槍は、生命を奪う代わりに生きながらの苦しみからは遠ざけてくれた・・敵将達は決して慈悲から槍を突き刺したわけではないのだろうが・・。
カンの最期を聞いたペルは心のどこかで、その見事な七本の槍に・・〝天の使いは七つの翼で、愛されし者を迎えに来る・・〟と云う『レニの神話』を思い出していた・・。
塔のように聳える岩山の神殿は焼け焦げ、それ自体が一つの巨大な墳墓と化した。
要の神殿を失った『魔月』達は各地へと散った。しかしその敗走とも思えた動きは、後年、シュメリア全土をその手中にすることから考えれば・・拡散だった。
その後一時期、神殿はミタンの管理下に置かれた。が、悲惨な戦いの跡に足を踏み入れようとする者とてなく、いつしかその名も相応しく『禁断の塔』と呼ばれるようになった。
そして二度に渡る『月の神殿の戦い』も、『禁断の塔の戦い』と云う名で後世に伝わることになる。しかしその所在そのものは・・いつしか朽ち果てた廃墟として人々の記憶の中からは失われて行った。
『魔月』の与えた妖しい力でシュメリアの軍と神官達を操ったと謂われる『月の王朝』シュラ王の権勢は、この戦いを一つの転機として翳りが見え始めた。
しかしそれでもまだその崩壊までには年月を要した。
そして後年、遂に同盟軍に包囲され、追い詰められた王宮から密かに逃れた後、シュラの行方を知る者はいない。しかしその傍らには常に、晩年の王が最も愛したという末の王子の姿があったと謂われている。
その後、完全に『魔月』に乗っ取られたシュメリアは周辺諸国との国交も断絶し、その支配者さえ何者とも分からぬまま・・妖しい鈍色の光を放ちつつ数百年の時を過ごすこととなる。
特にミタンとの戦いに於いては両国に癒すことの出来ない爪跡を残して、曾ての祖を同じくする兄弟国は最大の敵となったまま国交は断絶した。
その中でも特に有名なのが、第二次『月の神殿の戦い』、或いは今日でいう『禁断の塔の戦い』だ。闇の中で再び勢力を盛り返した『魔月の神殿』を巡って、シュメリア・ミタン双方が壮絶な戦いを繰り広げた。
そして遂にミタン軍が神殿の本丸になだれ込んだ時に、シュメリア側が地階の大量の干し草に火を放ち、神殿は一転して焼炎地獄と化した。
その複雑に入り組む逃げ場のない迷路の中で、幾多の戦いを戦った勇敢な戦士達がその最期を迎えた。ペル王の七勇士の一人、ダシュンもそのひとりだった。
そして、カンもその戦いで死んだ。彼の最期についてはこんな目撃談が残っている。
義足のカンは司令官として作戦本部にいた。兵士達が全員『月の神殿』内に入った時、突然、何か重要なことでも思い出したように、自らも急いで神殿の中に入って行った。
その神殿内では既に火の手が上がっていた。カンは兵士達に最地下の洞窟まで降りるように大声で指示を出した。
助かった兵士達の殆どは、彼の指示に従ってその洞窟、『月の泉』まで下りた者達だった。
しかし、カン自身は戦闘の一番激しい場所で壮絶な戦いの末、倒れた。
敵の武将達に囲まれたその義足に舐めるようにして地階から立ち上って来た火がついた。段々燃えて短くなる義足・・その火がジワジワと身体に上ってくる。
その顔自体が炎のように赤くなり、手にする太刀は『レニの谷』の刀鍛冶が打ち据える焼けたばかりの鋼のように赤く光っている。
周りの敵将が一斉にカンの身体を槍で突いた。カンはその槍の一つに、最後の力を振り絞って赤いレニの剣を打ち落とそうとした。
「・・よみ・・がえ・・」
しかしカンの体に突き刺さった七本の槍は、既に彼の生命を奪っていた。それからすぐに炎が彼の身体を包んだ。
カンの生命を瞬時に奪った七本の槍は、生命を奪う代わりに生きながらの苦しみからは遠ざけてくれた・・敵将達は決して慈悲から槍を突き刺したわけではないのだろうが・・。
カンの最期を聞いたペルは心のどこかで、その見事な七本の槍に・・〝天の使いは七つの翼で、愛されし者を迎えに来る・・〟と云う『レニの神話』を思い出していた・・。
塔のように聳える岩山の神殿は焼け焦げ、それ自体が一つの巨大な墳墓と化した。
要の神殿を失った『魔月』達は各地へと散った。しかしその敗走とも思えた動きは、後年、シュメリア全土をその手中にすることから考えれば・・拡散だった。
その後一時期、神殿はミタンの管理下に置かれた。が、悲惨な戦いの跡に足を踏み入れようとする者とてなく、いつしかその名も相応しく『禁断の塔』と呼ばれるようになった。
そして二度に渡る『月の神殿の戦い』も、『禁断の塔の戦い』と云う名で後世に伝わることになる。しかしその所在そのものは・・いつしか朽ち果てた廃墟として人々の記憶の中からは失われて行った。
『魔月』の与えた妖しい力でシュメリアの軍と神官達を操ったと謂われる『月の王朝』シュラ王の権勢は、この戦いを一つの転機として翳りが見え始めた。
しかしそれでもまだその崩壊までには年月を要した。
そして後年、遂に同盟軍に包囲され、追い詰められた王宮から密かに逃れた後、シュラの行方を知る者はいない。しかしその傍らには常に、晩年の王が最も愛したという末の王子の姿があったと謂われている。
その後、完全に『魔月』に乗っ取られたシュメリアは周辺諸国との国交も断絶し、その支配者さえ何者とも分からぬまま・・妖しい鈍色の光を放ちつつ数百年の時を過ごすこととなる。