第5話 第十一章 『御前会議』 その2
文字数 2,022文字
『月の王宮』、『月の宮殿』及び『月の神殿』で『魔月の宴』を行い、『魔月』即ち、反『月の神』の力を集約する。
それはその三か所を繋いで出来る『魔月の三角地帯』を開けるための、謂わば梃の力のようなもので、その三か所に膨大な〝魔月〟の力が加わることで、その繋いだ線に亀裂が入り、『魔月』界への扉が開くというのだ・・。
「・・で、何が、起こるんだ」
「それも、まだ不明ですが・・」
「確か、陛下も以前、何か仰っておられましたね・・」
そう言って、ザイルは精霊の女王に視線を向けた。
が、リデンは何か自らの心の内でも覗いているかのような面持ちでいた。
「・・『月の神』の反対勢力でも、大挙して現れるんでしょうか。・・〝魔月界〟、と言うなら」
「つまり、シュメリア王国の地下には、革命を目論む輩が潜んでいるのか・・」
「或いは・・囚われているのかも知れませんね」
「どちらにせよ、そんな扉、開けたくないわな」
「しかも、〝扉〟と言っても凄い規模ですよね」
「・・シュメリアのほゞ半分だろう」
「反対に、こちらがその異界に呑みこまれてしまいそうですね」
「いや、もしかして、それが目的かも知れんな」
俄かには信じがたい話にも関わらず、いきなり核心に触れるような反応が出て来た。
その時、急に暖かな日差しが傾き、列席者は皆、常春の森には稀なゾクッとするような妙な寒さを覚えた。
「しかし、そのコウの記憶自体、亡くなられたジュメ大使が現れて語った事だということなのでしょう・・」
「・・しかし、その・・大丈夫なんですか、そのジュメ氏の甥っ子というのは・・」
先程から興味深そうにやり取りを聞いていたトルクの大臣、ネルが口を挟んだ。
彼は何度かジュメと酒を酌み交わしたことがある。
(・・あのしっかり者の・・ジュメ大臣の亡霊?)
「・・確かに、やや憑り込まれやすいところは、窺えますな」
「それを言うなら、そのシャラとやらの方でしょうが・・そんな奇想に憑りつかれているなんて」
「じゃ、あの以前の奇妙な噂は、本当のことなんですかね・・」
ネルが言った。
トルクでも一時期、そのシュメリアの噂のことは話題になっていた。
「月夜の水の中から、ナンかが出て来て・・人を殺すって話ですか」
「つまり、水中にもどこかに通じる扉・・いや、栓ですかな、そんなものがあるってことですかな・・」
「リデン様の泉にさえ、ナンか現れましたからね」
それにはリデン側の何人かが、苦笑の表情を見せた。
「至るところに村や集落が現れたって話もありますよ。でも行ってみると、そこはただの廃墟で・・」
「そりゃ、噂に乗じた単なる悪戯じゃなかったんですか」
「しかし亡くなったジュメ大使は、それを信じていたらしいのです・・色々調査をなさって・・」
ハルが三年近く前の経緯について話した。
「・・シュメリアの古代史にも嵌まっておられたらしいのですが、何故か、それを裏付ける物が何も残されていないのです」
「・・それで、律儀なジュメ殿は亡者となっても・・何とかその調査結果を報告しようとなさっておられるのか」
妙に納得したようにネルが言った。
「では、そういった廃墟もどこかに通じるているんですか・・何というか,、先ほどカイ殿が説明なされた〝迷路〟の格子扉みたいですな」
「扉・・扉・・そのドコデモ扉、全部開けたらどうなるんだ」
「それこそ、迷い込みそうですな」
「・・それは果たして・・反逆の徒の巣窟か、亡者の群れの溜まり場か・・」
「そんなの、どっちもゴメンですよ・・」
「何というか・・悪霊の墓を暴くようなもんか」
「国そのものが、墓の上に建立されたとも言えますな・・」
「それも、主神に刃向う輩の・・」
「しかし『月の王朝』は万世一系・・前王朝を倒した話は聞きませんが・・先史時代はともかく」
その言葉にハルはふと、ジュメ大使が嵌っていたと云うシュメリアの古代史とは・・という思いが心に過った。シュメリアの国史は、『月の部族』による建国神話から成っている。当然、その傍流たるミタンに於いても、それは同様だった。
・・シュメリアに点在している多くの禁足地・・記録にない先史の時代の・・。
そう思いつつ、ふとハルの視線はこの会議に臨んでいる『精霊の森』の女王に向いた。
リデンはずっと無言のまま、落ち着いた様子で列席者の議論を見守っている。時折出る、トンデモ発言にかすかに微笑むくらいで・・。
永遠の時を生きるという森の精霊・・。果たして、麗しき精霊の女王陛下御自身はお持ちなのだろうか・・そんな記録に刻まれていない・・〝時〟の記憶を・・。
「・・では、一王朝というより、我々の住むこの世界の乗っ取りを企てているのか・・」
ふと我に返ると、議論はさらに白熱していた。
「・・ちょっと、話がデカくなり過ぎでしょ」
「そうですよ。まだ、実際には何も起こってないんですし」
「確かに、妄想が過ぎましたな・・」
「自分達で、勝手に『迷宮』に入り込んでしまったようですね・・」
それはその三か所を繋いで出来る『魔月の三角地帯』を開けるための、謂わば梃の力のようなもので、その三か所に膨大な〝魔月〟の力が加わることで、その繋いだ線に亀裂が入り、『魔月』界への扉が開くというのだ・・。
「・・で、何が、起こるんだ」
「それも、まだ不明ですが・・」
「確か、陛下も以前、何か仰っておられましたね・・」
そう言って、ザイルは精霊の女王に視線を向けた。
が、リデンは何か自らの心の内でも覗いているかのような面持ちでいた。
「・・『月の神』の反対勢力でも、大挙して現れるんでしょうか。・・〝魔月界〟、と言うなら」
「つまり、シュメリア王国の地下には、革命を目論む輩が潜んでいるのか・・」
「或いは・・囚われているのかも知れませんね」
「どちらにせよ、そんな扉、開けたくないわな」
「しかも、〝扉〟と言っても凄い規模ですよね」
「・・シュメリアのほゞ半分だろう」
「反対に、こちらがその異界に呑みこまれてしまいそうですね」
「いや、もしかして、それが目的かも知れんな」
俄かには信じがたい話にも関わらず、いきなり核心に触れるような反応が出て来た。
その時、急に暖かな日差しが傾き、列席者は皆、常春の森には稀なゾクッとするような妙な寒さを覚えた。
「しかし、そのコウの記憶自体、亡くなられたジュメ大使が現れて語った事だということなのでしょう・・」
「・・しかし、その・・大丈夫なんですか、そのジュメ氏の甥っ子というのは・・」
先程から興味深そうにやり取りを聞いていたトルクの大臣、ネルが口を挟んだ。
彼は何度かジュメと酒を酌み交わしたことがある。
(・・あのしっかり者の・・ジュメ大臣の亡霊?)
「・・確かに、やや憑り込まれやすいところは、窺えますな」
「それを言うなら、そのシャラとやらの方でしょうが・・そんな奇想に憑りつかれているなんて」
「じゃ、あの以前の奇妙な噂は、本当のことなんですかね・・」
ネルが言った。
トルクでも一時期、そのシュメリアの噂のことは話題になっていた。
「月夜の水の中から、ナンかが出て来て・・人を殺すって話ですか」
「つまり、水中にもどこかに通じる扉・・いや、栓ですかな、そんなものがあるってことですかな・・」
「リデン様の泉にさえ、ナンか現れましたからね」
それにはリデン側の何人かが、苦笑の表情を見せた。
「至るところに村や集落が現れたって話もありますよ。でも行ってみると、そこはただの廃墟で・・」
「そりゃ、噂に乗じた単なる悪戯じゃなかったんですか」
「しかし亡くなったジュメ大使は、それを信じていたらしいのです・・色々調査をなさって・・」
ハルが三年近く前の経緯について話した。
「・・シュメリアの古代史にも嵌まっておられたらしいのですが、何故か、それを裏付ける物が何も残されていないのです」
「・・それで、律儀なジュメ殿は亡者となっても・・何とかその調査結果を報告しようとなさっておられるのか」
妙に納得したようにネルが言った。
「では、そういった廃墟もどこかに通じるているんですか・・何というか,、先ほどカイ殿が説明なされた〝迷路〟の格子扉みたいですな」
「扉・・扉・・そのドコデモ扉、全部開けたらどうなるんだ」
「それこそ、迷い込みそうですな」
「・・それは果たして・・反逆の徒の巣窟か、亡者の群れの溜まり場か・・」
「そんなの、どっちもゴメンですよ・・」
「何というか・・悪霊の墓を暴くようなもんか」
「国そのものが、墓の上に建立されたとも言えますな・・」
「それも、主神に刃向う輩の・・」
「しかし『月の王朝』は万世一系・・前王朝を倒した話は聞きませんが・・先史時代はともかく」
その言葉にハルはふと、ジュメ大使が嵌っていたと云うシュメリアの古代史とは・・という思いが心に過った。シュメリアの国史は、『月の部族』による建国神話から成っている。当然、その傍流たるミタンに於いても、それは同様だった。
・・シュメリアに点在している多くの禁足地・・記録にない先史の時代の・・。
そう思いつつ、ふとハルの視線はこの会議に臨んでいる『精霊の森』の女王に向いた。
リデンはずっと無言のまま、落ち着いた様子で列席者の議論を見守っている。時折出る、トンデモ発言にかすかに微笑むくらいで・・。
永遠の時を生きるという森の精霊・・。果たして、麗しき精霊の女王陛下御自身はお持ちなのだろうか・・そんな記録に刻まれていない・・〝時〟の記憶を・・。
「・・では、一王朝というより、我々の住むこの世界の乗っ取りを企てているのか・・」
ふと我に返ると、議論はさらに白熱していた。
「・・ちょっと、話がデカくなり過ぎでしょ」
「そうですよ。まだ、実際には何も起こってないんですし」
「確かに、妄想が過ぎましたな・・」
「自分達で、勝手に『迷宮』に入り込んでしまったようですね・・」