21 おまえも掘れ

文字数 2,556文字

ザッザという、ケンちゃんが穴を掘っている音がする。

みんなで朝ごはんを食べて、それからなぜか、ケンちゃんは穴を掘っていた。

……

例のおじいちゃんの家の裏山にある洞窟。ボクよりずっと大きいケンちゃんは、ボクよりずっと速く掘る。ボクがあんなに苦労していたのに、ケンちゃんはこんにゃくに刺しているみたいにシャベルがザクっと壁に入る。


ケンちゃんはザクザク掘っていた。

見ているだけで、穴は大きくなる。

……
ホントに、トンネルでも作るつもりなのかな?

地底人が見つかるまで……。


ケンちゃん、地底人設定、覚えてるのかな?

おい……

すっごく掘っていたケンちゃんが立ち上がり、穴から顔を出してボクを睨む。

なに?
見てないで手伝えよ。
ニコリともせずにケンちゃんは言う。

昨日、ボクがいなかったから不機嫌なのかな?

ボクも手伝いたいんだけどさ。
ウソをつけ。
ウソじゃないよ。
シャベルがもう1個あれば、

ボクだって喜んで掘ってるよ。

……
でも、1個しかないからさ。

残念だけど、ボクはここで見ていることしかできない。

……
ケンちゃんはじっとボクを見る。
疲れたから交代しろ。
そう言って、ケンちゃんはけっこう深くなっていた穴から出てきて、シャベルをボクの前に投げ捨てた。
やれやれ。
やれやれじゃねーだろ。
疲れたのか、ケンちゃんは壁に寄りかかって座る。
ケンちゃんは短気だなぁ。
ボクはため息交じりにシャベルを手にした。純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベル……
(…………ん?)
なんか、ずいぶん薄汚れていた。

持ち手もグラグラする。

……
ケンちゃんは何も言わない。

寡黙でカッコいいだなんて、思わないからね。

(ボクのシャベルがこんなになるくらい、がんばったってことだもんね。文句を言うのも……)

せっかくだし、掘ることにしよう。
えいっ
穴の中に入る。
……
けっこう、掘ったよね……。

ボクのお腹ぐらいの深さがあって、しゃがむと外から見えなくなりそう。

……
なんか怖くて、しゃがむのはやめた。

立ったまま、穴の縁のところにシャベルを突き刺す。

……
ほんのちょっと、土が削れた。

ほんのちょっとだけ。


でも、思っていた以上に、シャベルのグラグラが大きい。

(ケンちゃん、このシャベルで掘ってたの?)
ケンちゃんをチラッと見る。
……
特に反応はない。

『なんでそこ掘ってるんだ?』くらい言うのかと思ったのに。


んしょっ
ちょびっとだけ、土が掘れた。

ホントにホントにちょびっと。

……
とうっ
思いっ切り掘ろうとしても、まるで地面に拒絶されているかのように掘れない。
……掘る気

あるのか?

そう言われ、手を止めてケンちゃんを見る。
あるよ。
ケンちゃんは穴をザクっと掘っていたけど、ボクはまったく掘ることができなかった。
ボクだって、

ケンちゃんみたいにザクザク掘りたいんだ。

そう言って、少し悲しくなった。

ボクはどうしてこんなに力がないんだろう。




……
すると、ケンちゃんが立ち上がる。
ったく
ケンちゃんは怒ったように言って、ボクからシャベルを取り上げる。そして、穴には入らず、ボクが掘っていた場所をザッザと掘り出す。
(ふつうに穴掘るの、飽きてたのかな?)
下に掘るのはやめたようで、今までの穴を広げるような感じに掘りだした。
……
ケンちゃんは、

土に好かれているんだね。

あ?
手を止めて顔を上げ、しかめ面のケンちゃんがボクを見る。
だから、

シャベルがそんなに地面に刺さるんだ。

そんなわけがあるか。
そう言って、ケンちゃんはまたザッザと穴を掘る。

ボクの横の土がどんどん崩れていく。



そうかなぁ……。
ケンちゃんは穴を掘る。

ザックザックと力強く。


ホントに上手に穴を掘っていた。

穴を掘ることが天職であるかのように。

好かれてるから、

土が助けてくれてるって感じするよ。

……
ケンちゃんは黙って穴を掘る。

ザックザックと穴を掘る。

ボク、嫌われてるのかなぁ……。
そう思ったら、哀しくなった。

すると、ケンちゃんが手を止めてボクを見る。

俺はおまえよりも力があって、

シャベルの使い方がわかってるだけだ。

頬についた土を払いながら、ケンちゃんは言う。
土に好かれたり

嫌われたりしているわけじゃない。

頬についた土が横に伸びて、線を描いていた。


…………

いいな……。

カッコいい……。


わんぱく坊主って感じ。

ボクもやってみたいかも……。

……
でも、ボクには無理だ。

なぜなら、ボクは穴を掘っていないから、ピカピカのお肌のままなんだ。

ふっ……
ボクは鼻で笑った。

誰もがうらやむピチピチお肌がこんなところでアダになろうとは……。

(ピチピチお肌は関係ないかな?)
都会っ子の振りをした、隠れ野生児ケンちゃんの本領発揮ってところかな?
(ボクはさしずめ、わんぱく坊主の振りをした都会っ子だもんね……)
そう思うと、なんだか切ない。
なんだよ。
…………
土の申し子みたいになってんだけどな……。

でも、肝心のケンちゃんがそれに気づいていない。

そんなことないよ。

ボクにはわかるんだ。

……
ケンちゃんは

土に選ばれた人だよ。

……
ケンちゃんの方が

地底人みたいだなぁ。

やっぱり、ケンちゃんはすごいな。

困った中二だって言うのに、こんなに体力があるもん。

地底人なのは

おまえだろ?

地底人設定、思い出してくれた?

設定じゃなくて、空想だけど。

ホントの地底人は

きっとケンちゃんだよ。

ボクはこんなに掘れない。

すると、ケンちゃんはまた穴を掘りだした。

俺は土を傷つけているけど、おまえは傷つけていない。きっと、土は俺よりもおまえの方が好きなんじゃないか?
ザックザックと穴を掘っているのは、もしかすると照れ隠しなのかもしれない。

めんどうくさいね、ケンちゃん。

ケンちゃん……
なんだ?
言ってて恥ずかしくない?
?!
ケンちゃんは驚いたような顔をして手を止める。
そこはさ、『ショウがちっちゃいからだ。大きくなれば、俺くらいに掘れるぞ』って言うところなんじゃないわけ?
……
『土はおまえの方が好きなんじゃないか』って言われるとは思わなかったよ。
ケンちゃんはとっても悪い人のような顔でボクを見た。

極悪人だって、こんな顔をしないんじゃないかって顔だった。

おまえ、

うるさいから出てけ。

ドスが効いた声でケンちゃんは言った。
は~い
ケンちゃんを置いて行くことにして、ボクは穴から出ることにした。

見てるだけなの飽きてたから、ちょうどよかった。

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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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