9 スコップの歌、再び
文字数 1,185文字
それから少しの間、ボクは待っていたが、ケンちゃんは戻ってこなかった。
しかたがなく、ボクはケンちゃんが地面に投げ置いたシャベルを手にする。
シャベルを地面に突き立てる。
しかし、ボクではちょっとしか掘れなかった。
でも、がんばってみよう。
小さく歌いながらシャベルを突き刺す。
ちょっと深く刺さる気がした。
リズムに乗るからなのか、歌わない時よりも刺さる気がする。
ボクはシャベルをじっと見つめた。
ここでザクっと地面を刺す。
さらにもう一回。
やっぱり歌わないよりも、刺さってる気がする。
地面が掘られていく感じを見て、笑みが浮かんできた。
地面が思っていた以上に掘れていく。
ちょっと歌詞を変えてみた。
次の言葉を考えている間に、いつものフレーズを入れる。
ここでちょっと、もったいぶってみる。
うん。
イイ感じ、イイ感じ。
ボクって天才?
天からフレーズが降りてくる。
なんか乗って来たぞ~。
軽やかに歌え。
なんか重い?
あれ?
急に昭和?
あれ?
まあ、いいや。
気を取り直していこう。
自分の名前、連呼もな……。
うん。
やっぱりコレだな。
落ち着くな~。
いつの間にか、ケンちゃんが戻ってきてた。
歌ってたから、気づかなかったよ。
ケンちゃんを見上げた。
ボクの歌を聞いていたのか、ケンちゃんはボクが持っていたシャベルを指さして聞いた。
ボクは鼻で笑った。
つづく