28 ゴメンねケンちゃん
文字数 1,569文字
青い顔をしたケンちゃんが帰ってきた。
ボクは温かく出迎えた。
ちょっと、驚かせすぎちゃったかなっていうのもあったから。
ケンちゃんはボクを見てビクっとした。
ボクはニコっと笑いかけた。
いつもと同じように。
ケンちゃん、ごめんね、と心の中で、そっと添えて。
ケンちゃんは何も言わず、後ろを向くと、段差に座って靴を脱ぐ。
ボクはなんとなく、そこに立っていた。
だって、せっかくケンちゃんが帰ってきたのに。
ケンちゃんはボクに背を向けたまま、手に茶色い紙袋を持ち、後ろにいるボクの方に出してきた。
ちょっと強めに言って、ちらっとボクの方を見る。
ボクが紙袋を受け取ると、
と、蚊が鳴くような声で言った。
振り向いてケンちゃんが言う。
ケンちゃんは笑みを浮かべてボクを見た。
本当に、いろいろゴメンね、ケンちゃん!
家に上がると、近くで待っていたおばあちゃんに言う。
ケンちゃんは洗面台に向かった。
ボクはこっそり家を抜け出して、ケンちゃんが買ってきたシャベルをおじちゃんに渡した。
***
次の日
朝になると、玄関にシャベルが置いてあった。
おじちゃん、仕事が正確だね。
約束の、ケンちゃんのシャベル。
歯磨きをしていたケンちゃんは、シャベルを見てそう思っていた。
どうでもいいけど、お行儀悪くない?
歯磨きは、玄関じゃなくて洗面台でしようよ。
ケンちゃんはシャベルを持つ。
そして、不思議そうな顔で見回す。
シャベル強化のために入っていたハルちゃんとコンちゃんが、わくわくしながらケンちゃんを見ていた。
違和感、持ったみたいだね。
でも、足音が洗面所の方に行く。
歯、磨いてるんだろうな。
少し間が合って、足音がボクの部屋に近づいてきた。
ケンちゃんがボクの部屋の唐紙を開けた。
その手には、新しいシャベル。
歯ブラシは洗面台に置いてきたんだね。
ハルちゃんとコンちゃんが入っているシャベル。
地上で出会えた喜びを、無言でこっちに訴えかけていた。
ボクの枕元に置いてあった、シャベルに入っていたオリちゃんが小さな声で反応する。
ちょこっと相談して
お互いに、うなずいていた。
なんか、嬉しそうだ。
その間、ケンちゃんも止まっていた。
やっぱりちょっと、違和感を持っているみたいだね。
ボクは笑顔で言った。
あたらめて、シャベルをボクに見せる。
正直に本当のことを言った。
ケンちゃんもおじさんには会ったことがあった。
お正月に、ふつうの人間としてのおじさんにだけど。
ボクはケンちゃんに直ったシャベルを見せた。
ハルちゃんとコンちゃんが、何かをケンちゃんに訴えている。
でも、それはケンちゃんには伝わらないはずだった。
ただの人間のケンちゃんには……。
ケンちゃんは、怒ると思ったけど、怒らなかった。
『無駄なこと、させてんじゃね~』って、言うかと思ったんだけどな。
ケンちゃんは、シャベルを自分のお部屋に置くと、洗面台に向かった。
歩きながら歯磨きはお行儀悪いけど、ちゃんとまた磨くんだね。