28 ゴメンねケンちゃん

文字数 1,569文字

ただいま……
青い顔をしたケンちゃんが帰ってきた。
おかえり、ケンちゃん。
ボクは温かく出迎えた。

ちょっと、驚かせすぎちゃったかなっていうのもあったから。

……
ケンちゃんはボクを見てビクっとした。
…………
ボクはニコっと笑いかけた。

いつもと同じように。


ケンちゃん、ごめんね、と心の中で、そっと添えて。

……
ケンちゃんは何も言わず、後ろを向くと、段差に座って靴を脱ぐ。
……
ボクはなんとなく、そこに立っていた。

だって、せっかくケンちゃんが帰ってきたのに。




ん……
ケンちゃんはボクに背を向けたまま、手に茶色い紙袋を持ち、後ろにいるボクの方に出してきた。
……
ん……!
ちょっと強めに言って、ちらっとボクの方を見る。
……
ボクが紙袋を受け取ると、
……さっきは悪かった。
と、蚊が鳴くような声で言った。
ボクも、ゴメンね

ケンちゃん。

ショウは

悪くないだろ?

振り向いてケンちゃんが言う。
ううん。

ゴメンね……

ふっ
ケンちゃんは笑みを浮かべてボクを見た。
…………
本当に、いろいろゴメンね、ケンちゃん!




ばーちゃん、

腹減った……

家に上がると、近くで待っていたおばあちゃんに言う。
あらあら、ご飯はできてますよ。

手を洗ってらっしゃい。

わかった……
ケンちゃんは洗面台に向かった。
…………
ボクはこっそり家を抜け出して、ケンちゃんが買ってきたシャベルをおじちゃんに渡した。




***




次の日


朝になると、玄関にシャベルが置いてあった。

おじちゃん、仕事が正確だね。


約束の、ケンちゃんのシャベル。

(なんでここに?)
歯磨きをしていたケンちゃんは、シャベルを見てそう思っていた。


どうでもいいけど、お行儀悪くない?

歯磨きは、玄関じゃなくて洗面台でしようよ。

(なんか、変わってないか?)
ケンちゃんはシャベルを持つ。

そして、不思議そうな顔で見回す。

(どきどき、どきどき)
シャベル強化のために入っていたハルちゃんとコンちゃんが、わくわくしながらケンちゃんを見ていた。
違和感、持ったみたいだね。

でも、足音が洗面所の方に行く。


歯、磨いてるんだろうな。

少し間が合って、足音がボクの部屋に近づいてきた。

ショウ
ケンちゃんがボクの部屋の唐紙を開けた。

その手には、新しいシャベル。


歯ブラシは洗面台に置いてきたんだね。

…………
ハルちゃんとコンちゃんが入っているシャベル。

地上で出会えた喜びを、無言でこっちに訴えかけていた。

ぴっ
ボクの枕元に置いてあった、シャベルに入っていたオリちゃんが小さな声で反応する。
ぽしょぽしょ、ぽしょぽしょ
ちょこっと相談して
(コク、コク)
(コク、コク)
お互いに、うなずいていた。

なんか、嬉しそうだ。

その間、ケンちゃんも止まっていた。

やっぱりちょっと、違和感を持っているみたいだね。

おはよう、ケンちゃん。

どうしたの?

ボクは笑顔で言った。
玄関に、コレ、あったんだけど……
あたらめて、シャベルをボクに見せる。
おじちゃんが届けてくれたんだよ。
正直に本当のことを言った。
え、

なんで?

すっごいシャベルにしてくださいって、お願いしたの。
おじさん

忙しいだろ?

ケンちゃんもおじさんには会ったことがあった。

お正月に、ふつうの人間としてのおじさんにだけど。

でもほら、ボクのシャベルも

直してくれたんだ。

え?
ボクはケンちゃんに直ったシャベルを見せた。
ぴっぴぴっぴっぴ~
ハルちゃんとコンちゃんが、何かをケンちゃんに訴えている。
…………
でも、それはケンちゃんには伝わらないはずだった。

ただの人間のケンちゃんには……。

ケンちゃん、シャベル、2つになったから、今日は一緒に穴、掘れるね。
ぴぃいい
……

ケンちゃんは、怒ると思ったけど、怒らなかった。

『無駄なこと、させてんじゃね~』って、言うかと思ったんだけどな。


…………
ケンちゃんは、シャベルを自分のお部屋に置くと、洗面台に向かった。
……
歩きながら歯磨きはお行儀悪いけど、ちゃんとまた磨くんだね。
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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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