1 ケンちゃん現る
文字数 1,902文字
茶色い土の洞窟の中。
作業用の電球が連なっている。
風が吹かない洞窟の中は適温だった。
春だから、外もそれほど寒くはないけど。
ボクはそこで、さらに穴を掘っていた。
ざっくざっくと……
……は、ちょっと掘れない。
長い年月の間に踏み固められた地面がけっこう硬い。
ボクはじっとシャベルを見た。
純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルを……。
けがれなき純白の光を放つシャベルを見つめ、うなずく。
しかたがない。
ここは最後の手段だ。
ここで、シャベルを持った手でポーズを取る。
ひと息つく。
大切な言葉を言う前の間を取っていた。
まずは曲名の発表。
そして目を閉じ、呼吸を整える……。
響け、ボクのスーパーナチュラル、エンジェリックボイスよ……。
シャベルに向かって歌をうたう。
リズミカルに、気持ちを込めて……
なんか楽しくなってきた。
ボクの大事な大事なシャベルよ。
聴け、ボクの歌を…………
こうすると、シャベルに不思議な力が宿ると、古 の種族は言っている。
よし、パワー充填 、百パーセントだ。
歌によって、シャベルに力が込められた。
気合いと共に、シャベルを地面に突き刺す。
パワーが宿ったシャベルは、サクっと地面に刺さった。
気合いを入れる。
折れてしまいそうな心を奮い立たせるかのようにっ
いけ、行くんだ、ボク。
地面に刺さったシャベルを手にし、再度刺す。
茶色い地面にシャベルを刺し、土をかき出す。
掘っている穴の横に、小さな山ができた。
不思議なパワーはすごくって、ざっくざっくと穴が掘れる。
しかし、
という音と共に、大きな衝動が手にかかる。
痛い……。
じんわりと目に涙がたまってくる。
手からシャベルが滑り落ち、コトンという音がした。
ボクの行く手を阻む物が現れたのだ……。
ボクは重大なミスに気が付いた。
ボクは自分が歌った歌を思い出し、指を折って数えてみる……。
しかたがない。
ここはさらに強大な……
ボクばシャベルを再び手にする。
と、ボクが盛大に秘密の呪文を唱えていると、
という声と共に、頭に衝撃が来た……。
シャベルを落とし、頭を押さえて座り込む。
我が一族のクラッシャー。
凄みのある声で静かにケンちゃんは言う。
ちょっとカッコイイ。
ちょっとだけ、だけどね。
「ショウ」はボクの名前。
おじいちゃんもおばあちゃんも、キュートでぷりちぃーな8歳で新小学3年生のボクをとってもかわいがってくれる。
ケンちゃんは声を荒げない。
でも言い方はかなり乱暴だ。
ケンちゃんは寡黙 にたたずんていた。
カッコいいなんて、思ってないからね。
ホントだよ。