1 ケンちゃん現る

文字数 1,902文字

茶色い土の洞窟の中。

作業用の電球が連なっている。


風が吹かない洞窟の中は適温だった。

春だから、外もそれほど寒くはないけど。


ボクはそこで、さらに穴を掘っていた。

んしょ……
ざっくざっくと……
くぅっ!
……は、ちょっと掘れない。

長い年月の間に踏み固められた地面がけっこう硬い。

むむぅ……
ボクはじっとシャベルを見た。

純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルを……。

んっ

けがれなき純白の光を放つシャベルを見つめ、うなずく。


しかたがない。

ここは最後の手段だ。

スコップぅ~
ここで、シャベルを持った手でポーズを取る。



コォップ~
ひと息つく。

大切な言葉を言う前の間を取っていた。

スコップのうたぁ~
まずは曲名の発表。
ふぅうぅぅ……
そして目を閉じ、呼吸を整える……。
すっ、すっ、すっすっすっすっ
響け、ボクのスーパーナチュラル、エンジェリックボイスよ……。




♪スコップコップ、コップコップ~♪
シャベルに向かって歌をうたう。
♪スコップコップ、コップっプ♪
リズミカルに、気持ちを込めて……
♪スコップコップ、コップコップ~♪
なんか楽しくなってきた。
♪スコップコップ、コップップ~♪

ボクの大事な大事なシャベルよ。

聴け、ボクの歌を…………




♪スコップコップ、コップコップ~♪

こうすると、シャベルに不思議な力が宿ると、(いにしえ)の種族は言っている。
♪スコップコップ、コップップ~♪
よし、パワー充填(じゅうてん)、百パーセントだ。
ゆくぞ!
歌によって、シャベルに力が込められた。
とぅいや~!
気合いと共に、シャベルを地面に突き刺す。
おお~
パワーが宿ったシャベルは、サクっと地面に刺さった。


ここで一気に行くぞっ!

気合いを入れる。

折れてしまいそうな心を奮い立たせるかのようにっ


いけ、行くんだ、ボク。

うしっ
地面に刺さったシャベルを手にし、再度刺す。
おぉ~
茶色い地面にシャベルを刺し、土をかき出す。
掘れる、掘れるぞ。

ザクザクと掘れるぞっ

掘っている穴の横に、小さな山ができた。
行っけぇ~
不思議なパワーはすごくって、ざっくざっくと穴が掘れる。

しかし、

という音と共に、大きな衝動が手にかかる。
ううう……
痛い……。

じんわりと目に涙がたまってくる。

くっ……
手からシャベルが滑り落ち、コトンという音がした。

ボクの行く手を阻む物が現れたのだ……。

(スコップのフレーズが1回多かったかもしれない)
ボクは重大なミスに気が付いた。
(あれ? スコップって、何回言ったっけ?)
ボクは自分が歌った歌を思い出し、指を折って数えてみる……。
スコップコップコップコップ、スコップコップコップっプ

スコップコップコップコップ……えっと……

 





…………。

しかたがない。

ここはさらに強大な……

パワー充填(じゅうてん)120パーセントのスコップのうったぁああ!
ボクばシャベルを再び手にする。
♪スコッ……
と、ボクが盛大に秘密の呪文を唱えていると、
うるせえ
という声と共に、頭に衝撃が来た……。
痛い……
シャベルを落とし、頭を押さえて座り込む。
こんなところで叫ぶな。

お前の声はキンキンとうるさいんだよ。

我が一族のクラッシャー。

従兄(いとこ)のケンちゃんだった。

幼気(いたいけ)なボクのおこちゃまボイスに向かって、なんてこと言うんだ。
自分でおこちゃま言うな。
しかたがないよ。

ボクはSUPERかわいいおこちゃまだもの。

……スーパーとかかわいいとかいらん。

おまえはただのおこちゃまってかガキだ。

おこちゃまがいい。
ウゼえ……

凄みのある声で静かにケンちゃんは言う。

ちょっとカッコイイ。


ちょっとだけ、だけどね。

かわいいでしょ。

えっへん

そんなこと言ってないぞ……
おじいちゃんもおばあちゃんも褒めてくれるよ。「ショウはかわいいね」って
「ショウ」はボクの名前。

おじいちゃんもおばあちゃんも、キュートでぷりちぃーな8歳で新小学3年生のボクをとってもかわいがってくれる。

うるせえから黙れ
ケンちゃんは声を荒げない。

でも言い方はかなり乱暴だ。

ケンちゃん

かわいいって言われないから嫉妬してるわけ?

するわけねーだろ。
大丈夫だよ。

ここにはボクがいるから無理だけど、おじいちゃんの家から一歩出れば、ケンちゃんもかわいい中学1年生だからね。

……
あ、ごめん。

間違えちゃった。

4月からはケンちゃんも中学2年生だね。
中二病で有名な中学2年生。

かわいい真っ盛りだね。

中二病は『かわいい』って意味じゃねーぞ。
知ってるよ。

大人なのに中学2年生のようなイタい行動をする人のことだよね。

………………。
どしたの?

ケンちゃん。

…………。
ケンちゃんは寡黙(かもく)にたたずんていた。


カッコいいなんて、思ってないからね。

ホントだよ。




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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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