29 パワー充填100%のスコップの歌
文字数 2,266文字
ご飯を食べて、ケンちゃんと裏山の洞窟で穴を掘っていた。
ザクザク、ケンちゃんは掘っていた。
深く掘るというよりは、穴を広げる感じで掘っている。
ハルちゃんとコンちゃんも誇らしげに使われている。
オリちゃんも反応している。
伝説の武器強化アイテム、オリハルコンもしくはヒヒイロカネが入っているからね。オリちゃんもハルちゃんもコンちゃんも、張りきっている。
ケンちゃんは疑心暗鬼な感じで、穴を掘っていた。
でも、みるみる穴が大きくなっていく。
シャベルもだけど、やっぱりケンちゃんの体力、ふつうじゃないよね。昨日もバスが終った真っ暗な道をかなりの速さで歩いてたし。
ハルちゃんとコンちゃんも大変そうだ。
オリちゃんは主に応援だけど。
そのことに気づいたケンちゃんが言った。
そう言って、ちょっと伸びをした。
ずっと座ってたから、体がなまった感じだった。
ざくざく掘っていたケンちゃんの手が止まる。
ボクとケンちゃんの、田舎で過ごすとっても楽しい春休みは明日でおしまい。
明後日からは新学期が始まる。
ケンちゃんは、照れたように、また穴を掘りだした。
ザックザックと掘っていた。
ケンちゃんが固まる。
ケンちゃんの眉が寄る。
まず、題名の発表。
ボクはうなずいた。
スコップをマイクのように、両手で持った。
ケンちゃんは、ピクリともせずに聞いていた。
次のフレーズは『よっこいしょういち』だったから、こんな感じでいいかな?
そう叫んで、
オリちゃんにだけ、聞こえるように言う。
オリちゃんが返事をした。
ザクっ!
ヘンな手ごたえだった。
ボコッと、底が抜けるような感じ。
応援ばかりしていたオリちゃんの力が有り余っていたのか、ボクのシャベルで掘った穴は、異世界と思しき景色が見えていた。
ケンちゃんもその景色を観た。
ボクが開けたのは地底世界の天井で、下に高度な科学で発展したであろう都市が見えた。
これ、ウチの一族関係ない、ホントに異世界っぽいヤツだよ。
嘘から出た実っていうか、『ボクと違う地底人』に会いに行けちゃう感じだよ……
ボクは、オリちゃんが強化してくれた、純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルで、その穴をふさいだ。
オリちゃんもボクの意思を汲んでくれたのか、しっかり閉じてくれた。
ケンちゃんが目を輝かせて言う。
ボクとケンちゃんは、オリハルコンで強化したシャベルで穴を埋めた。
これ以上の異世界、お腹いっぱいだよ。
ケンちゃんは少しの間、考えていた。
ケンちゃんが、ちょっとだけ笑った。
ボクとケンちゃんの春休みは、ケンちゃんの素敵なお歌で幕を下ろした。
とっても楽しい、春休みだった。