29 パワー充填100%のスコップの歌

文字数 2,266文字

ご飯を食べて、ケンちゃんと裏山の洞窟で穴を掘っていた。
すっげー、

掘れるんだけど……

ザクザク、ケンちゃんは掘っていた。

深く掘るというよりは、穴を広げる感じで掘っている。

(ぴっ)
ハルちゃんとコンちゃんも誇らしげに使われている。
ふたりで掘ると、早いねっ
(ぴっ)
オリちゃんも反応している。
ふたりだからじゃなくて、

シャベル、ヘンじゃね?

ぴっ
ぴっ
伝説の武器強化アイテム、オリハルコンもしくはヒヒイロカネが入っているからね。オリちゃんもハルちゃんもコンちゃんも、張りきっている。
ヘンじゃないよ、ふつうだよ。
ふつうか?

これが?

ケンちゃんは疑心暗鬼な感じで、穴を掘っていた。

でも、みるみる穴が大きくなっていく。

(ホントにすごいな……)
シャベルもだけど、やっぱりケンちゃんの体力、ふつうじゃないよね。昨日もバスが終った真っ暗な道をかなりの速さで歩いてたし。
ぴっぴっぴっぴ
ハルちゃんとコンちゃんも大変そうだ。
ぴっぴっぴっぴ
オリちゃんは主に応援だけど。
シャベル、あるんだから掘れよ。
そのことに気づいたケンちゃんが言った。
そだね、ぼちぼち掘ろうか。
とっとと掘れ。
まったく

ケンちゃんは短気だよね。

そう言って、ちょっと伸びをした。

ずっと座ってたから、体がなまった感じだった。

あ……
ざくざく掘っていたケンちゃんの手が止まる。
どしたの?
俺のギター、

なんで俺の部屋にあるんだ?

見つけちゃったの?
見つけた。

さっき。

ギター見て、

ケンちゃんがビックリするとこ見たかったのに。

だから、

なんであるんだ?

おばちゃんから

借りてきたんだよ。

母さんが?
うん。
明日、帰るんだぞ。
ボクとケンちゃんの、田舎で過ごすとっても楽しい春休みは明日でおしまい。

明後日からは新学期が始まる。

淋しいな。
…………
ボクね、ケンちゃんが遊んでくれて、とっても楽しかったよ。
俺は別に

叔母さんに頼まれただけだし……

それでもね、

とっても楽しかった。

…………
ありがとう

ケンちゃん

…………
ケンちゃんは、照れたように、また穴を掘りだした。

ザックザックと掘っていた。

ケンちゃん
なんだ?
ケンちゃんのギター、あるんだから、お歌うたって。
!!
ケンちゃんが固まる。
ケンちゃん

お歌……

ギターがないからダメだ。
取ってこよか?
ここに持って来たら

汚れるだろ?

え~
そんなことよりも掘れ。

せっかくおじさんが直してくれたんだから。

しょうがないな……
しょうがないって何だよ。
じゃあ

趣味と実益を兼ねて、歌います。

は?
ケンちゃんの眉が寄る。
パワー充填100%のスコップの歌
まず、題名の発表。
それ、歌うのか?
ボクはうなずいた。
100%の方だから、そんなにうるさくないよ。
何が違うんだ?
音量?
…………
スコップをマイクのように、両手で持った。
…………
♪スコップコップ、コップ、コップ♪

♪スコップコップ、コップっプ♪

…………
♪スコップコップ、コップ、コップ♪

♪スコップコップ、コップっプ♪

…………
ケンちゃんは、ピクリともせずに聞いていた。

♪ボークのスコップ、素敵なスコップ♪

♪スコップコップ、コップ、コップ♪
…………
♪素手だと全然、掘れないけれど♪

♪スコップコップ、コップっプ♪

…………
♪スコップ使えば倍は掘れる

いやいやもっとかな三倍だ~♪

…………
♪スコップコップ コップコップ~♪

♪スコップコップ コップップ~♪

…………
♪ザックザック掘るぞ 掘るぞ掘るぞ掘~るぞ♪

♪スコップコップ コップコップ♪

どこまで続くんだ?
じゃあ、次のフレーズで終わりにするね。
そか……
♪スコップコップ、コップコップー♪

♪スコップコップ、コップップ♪

次のフレーズは『よっこいしょういち』だったから、こんな感じでいいかな?
うむ!

パワー充填100%

そう叫んで、
いくよ、オリちゃん
オリちゃんにだけ、聞こえるように言う。
ぴっ
オリちゃんが返事をした。
いっけぇえ!

どこまでも掘るのだぁ~!

ザクっ!
あれ?
ヘンな手ごたえだった。

ボコッと、底が抜けるような感じ。

あれれ?
ぴぴぴ?
応援ばかりしていたオリちゃんの力が有り余っていたのか、ボクのシャベルで掘った穴は、異世界と思しき景色が見えていた。
!!
ケンちゃんもその景色を観た。
本物の……

地底人の世界?

ボクが開けたのは地底世界の天井で、下に高度な科学で発展したであろう都市が見えた。
……
これ、ウチの一族関係ない、ホントに異世界っぽいヤツだよ。

嘘から出た実っていうか、『ボクと違う地底人』に会いに行けちゃう感じだよ……

…………
ボクは、オリちゃんが強化してくれた、純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルで、その穴をふさいだ。
ぴぃい~
オリちゃんもボクの意思を汲んでくれたのか、しっかり閉じてくれた。
今のって……
ケンちゃんが目を輝かせて言う。
ケンちゃん
なんだ?
ボクとケンちゃんの春休みは

明日までなんだ。

…………そうだな。
明日はお家に帰って

明後日は新学期なんだ。

…………ああ。
ボクは新小学三年生

ケンちゃんは新中学二年生

…………
地底人に会ってる暇ある?
…………ないな。
だよね。
……うん。
じゃあ、穴を埋めて、

おじいちゃんの家に帰ろう。

わかった。
ボクとケンちゃんは、オリハルコンで強化したシャベルで穴を埋めた。

これ以上の異世界、お腹いっぱいだよ。

ケンちゃん
なんだ?
せっかくケンちゃんのギターを持って来たんだから、お歌うたってよ。
…………
ケンちゃんは少しの間、考えていた。
1曲だけだぞ。
わ~い
ふっ
ケンちゃんが、ちょっとだけ笑った。
むゅっ
ボクとケンちゃんの春休みは、ケンちゃんの素敵なお歌で幕を下ろした。

とっても楽しい、春休みだった。

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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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