26 天狗
文字数 1,261文字
ケンちゃんは、誰にも聞かず、ひとりでシャベルを見つけて買ってきた。
手には茶色いお店の紙袋を持っていた。
でも、ひとりで探したから、時間がかかってしまった。
しかも、行きとは違う電車に乗って、バスに乗ろうとしたら、最終バスは出て行った後だった。
しかたがなく、駅からおじいちゃんの家まで歩いている。
歩いていたから、すでに日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。
街灯もたまにしかない。
ケンちゃんが行きに使ったバスと電車、本数は少ないけど、乗り継ぎはいいんだよね。
だから乗客が少ない。
ケンちゃんはおばちゃんから教わっている。
中2のケンちゃん、すっごく怖がってる。
フクロウの真似をしてみた。
けっこう、似てるんだな。
ビクっとするケンちゃん。
逆切れ気味のケンちゃん。
ちょっと声が裏返ってる。
ケンちゃんはそれを知らない。
そのままで行くのは、ちょっと恥ずかしい。
ケンカ別れみたいな感じだったし……。
ボクは、おじいちゃんのお面と頭巾をかぶる。
ついでにカツラも。
ちとでかい?
ウケる。
ふだんはこんな笑い方しないよ。
お面に乗っ取られたのかなぁ?
ふふふっ
ビクっとするケンちゃん。
ちょっと、というか、とっても楽しい。
バサバサっという羽の音をさせてみた。
静かな夜に、その音が響いた。
けっこう大きい音だよね。
ケンちゃんは周囲を見回す。
もう一回、バサッバサという羽の音をさせ、街灯の下に立つ。
ちょうど、お面だけが見えるように。
ケンちゃんは、言葉になっていない声を上げた。
バサっバサっバサっという羽音と共に、ボクは飛び去った。
***
おじいちゃんの家に着いた。
おばあちゃんは驚かなかった。
もうちょっと何か反応、ないの?
お面を外し、ケンちゃんが居る方を指さして答えた。
いたずらに使ったんじゃないけど、結果的にそうなった?
***
その頃のケンちゃん。
腰を抜かしていた。
ケンちゃんは、これがトラウマになったらしい。
でもさ、ケンちゃん。
ケンちゃんは八百屋さんだと思ってたのかもしれないけど、中野ストアにシャベル、売ってたんだよ。