26 天狗

文字数 1,261文字

ケンちゃんは、誰にも聞かず、ひとりでシャベルを見つけて買ってきた。

手には茶色いお店の紙袋を持っていた。

…………
でも、ひとりで探したから、時間がかかってしまった。

しかも、行きとは違う電車に乗って、バスに乗ろうとしたら、最終バスは出て行った後だった。


しかたがなく、駅からおじいちゃんの家まで歩いている。

歩いていたから、すでに日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。


街灯もたまにしかない。

(朝と同じ行き方してたら、最終バスには間に合ってたのに)
ケンちゃんが行きに使ったバスと電車、本数は少ないけど、乗り継ぎはいいんだよね。


(あれ、うちの一族のための交通機関だし)
だから乗客が少ない。
(おばちゃんはそれを知らないから、本数が多いこっちで来るんだよね)
ケンちゃんはおばちゃんから教わっている。
こ……怖くなんてないし……
…………
怖くなんて、ないんだからな……
中2のケンちゃん、すっごく怖がってる。
ホー ホー
フクロウの真似をしてみた。

けっこう、似てるんだな。

っ!!
ビクっとするケンちゃん。
どうしてこういう時に限ってショウはいないんだよ!
逆切れ気味のケンちゃん。

ちょっと声が裏返ってる。

(いるんだけどな)

ケンちゃんはそれを知らない。

(まあ、でも、ケンちゃんを迎えに来たわけだから、行くとするか……)

そのままで行くのは、ちょっと恥ずかしい。

ケンカ別れみたいな感じだったし……。


ボクは、おじいちゃんのお面と頭巾をかぶる。

ついでにカツラも。

…………
ちとでかい?
(ま、いっか)
こ……、こ……こわくなんてな~いぞ。こわくなんてないんだからな。
ウケる。
ケケケケケケケ
ふだんはこんな笑い方しないよ。

お面に乗っ取られたのかなぁ?


ふふふっ

?!
ビクっとするケンちゃん。
(怖がっているなぁ)
ちょっと、というか、とっても楽しい。

バサバサっという羽の音をさせてみた。


静かな夜に、その音が響いた。

けっこう大きい音だよね。

え?

何の音?!

ケンちゃんは周囲を見回す。

もう一回、バサッバサという羽の音をさせ、街灯の下に立つ。

…………
ちょうど、お面だけが見えるように。
*◇■×△◎……!!
ケンちゃんは、言葉になっていない声を上げた。
ケケケケケケケケケケケケケケケケ
バサっバサっバサっという羽音と共に、ボクは飛び去った。




***




おじいちゃんの家に着いた。

ただいま。
ショウちゃん?

ケンちゃんは? お迎えに行ったんじゃなかったの?

おばあちゃんは驚かなかった。

もうちょっと何か反応、ないの?

あっちで腰抜かしてるよ。
お面を外し、ケンちゃんが居る方を指さして答えた。
おじいちゃんの大事なお面、いたずらに使っちゃダメよ。
はーい
いたずらに使ったんじゃないけど、結果的にそうなった?




***




その頃のケンちゃん。

☆……、◇……☆●×……

腰を抜かしていた。
て……? 天狗?

え? 何? 本物?

ケンちゃんは、これがトラウマになったらしい。


でもさ、ケンちゃん。

ケンちゃんは八百屋さんだと思ってたのかもしれないけど、中野ストアにシャベル、売ってたんだよ。

(ボクのシャベルを壊したことは、これでチャラにしてあげよう)
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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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