15 コップの歌
文字数 1,608文字
おばあちゃんは外用のほうきで玄関のお掃除していた。
おばあちゃんは顔を上げて、ボクとケンちゃんを出迎えてくれた。
ケンちゃんも、おばあちゃんには素直だよね。
おばあちゃんはケンちゃんが持っていた桃のジュースを見る。
おばあちゃんは困ったように言って、ケンちゃんの方を向いた。
にこりともせずにケンちゃんは言う。
おばあちゃんは、そんなケンちゃんの頭をなでた。
ケンちゃん、おばあちゃんのこと、大好きだね。
ボクは急いで靴を脱いで、台所に行った。
壁のところの棚に、同じようなコップが並んでいる。
ん?
どこかで聞いたことがあるフレーズ……。
これは、もしや……。
まさかっ!
おお、どこか懐かしい……。
とても馴染んだ曲……。
ペンと後ろから頭をはたかれた。
確認するまでもないけど、後ろを向いて、ケンちゃんを見る。
桃のジュースのビンを持ったケンちゃんが立っていた。
抑揚のない声でケンちゃんは言う。
決まった。
ケンちゃんは表情を変えない。
カッコいいけど、うらやましくなんて、ないんだからね。
いつになく返事が早い。
ボクはじーっとケンちゃんを見つめる。
蚊が鳴くような、小さな声でケンちゃんは言った。
首を傾げた。
そう言って、ケンちゃんはコップに桃のジュースをそそぎ、お盆に乗せるとおばあちゃんの部屋に向かった。
歩いて行くケンちゃんの後ろから叫ぶと、ケンちゃんは振り返り、ものすごく極悪人のような顔でボクを見た。
なんでそこまですごむかな?
ケンちゃんは何か言いたそうな顔をしていた。
でも、だいたい何を考えてるかわかってたから、何も言わなかった。
それから、おばあちゃんと桃のジュースを飲んだ。
おばあちゃんは嬉しそうに桃のジュースを飲んでいた。
ボクはとっても嬉しかった。
桃のジュースがおいしかったこともあったけど、おばあちゃんが喜んでくれたことが嬉しかった。
ボソっと言って、ケンちゃんはジュースを飲む。
コップを見て、『意外にうまいぞ』という顔をした。
もともと、桃のジュースがおいしいということもあるけれど、ひとり占めして飲むのではなく、みんなで分けて飲むと、もっとおいしくなるという魔法があるのだ。
忘れてた。