15 コップの歌

文字数 1,608文字

おばあちゃん

ただいまっ!

おばあちゃんは外用のほうきで玄関のお掃除していた。
おかえりなさい。
おばあちゃんは顔を上げて、ボクとケンちゃんを出迎えてくれた。
……ただいま。
ケンちゃんも、おばあちゃんには素直だよね。
おばあちゃん、ケンちゃんがね

桃のジュースをここまで持ってきてくれて、足りなかった分も払ってくれたよ。

おばあちゃんはケンちゃんが持っていた桃のジュースを見る。
あらあら

ビンのジュースを買ってきたの?

うんっ

皆で飲めるよ。

そう?
おばあちゃんは困ったように言って、ケンちゃんの方を向いた。
ケンちゃん、ありがとうね。

足りなかった分は後であげるから。

いいよ。

俺も飲むし。

にこりともせずにケンちゃんは言う。
遠慮しないで、

久しぶりに遊びに来てくれたんだから。

おばあちゃんは、そんなケンちゃんの頭をなでた。
…………。
ケンちゃん、おばあちゃんのこと、大好きだね。
コップ、用意してくるね。
ボクは急いで靴を脱いで、台所に行った。
えっと、コップ、コップ……。
壁のところの棚に、同じようなコップが並んでいる。
あった。

コップっプ。

ん?
コップ、コップ

コップっプ……

どこかで聞いたことがあるフレーズ……。

♪コップコップ、コップコップ~♪ 

これは、もしや……。

♪ん、コップコップ、コップっプ♪

まさかっ!

♪んコップコップ、コップコップ♪

おお、どこか懐かしい……。

とても馴染んだ曲……。

♪んっコップコップ、コップっプ♪
ペンと後ろから頭をはたかれた。
痛いよ、ケンちゃん。
確認するまでもないけど、後ろを向いて、ケンちゃんを見る。

桃のジュースのビンを持ったケンちゃんが立っていた。

スコップはやめろって言っただろ。
抑揚のない声でケンちゃんは言う。
だから、

『す』は言ってない。

ゆえに……

…………
コップの歌!
決まった。
…………
ケンちゃんは表情を変えない。

カッコいいけど、うらやましくなんて、ないんだからね。

スコップとメロディ一緒じゃねーか。
でも『す』を言ってないもん。

だから、コップの歌。

…………。
ホントは、

ケンちゃんも歌いたいんでしょ?

歌いたくない。
いつになく返事が早い。
ケンちゃん、お歌、

上手だったよ。

……。
ホントは

歌うの大好きなんじゃない?

……好きじゃない。
ボクは大好きだよ。
……
だから

一緒に歌おうよ。

ヤダ……
ケンちゃん……
……
……
ボクはじーっとケンちゃんを見つめる。
……ーが

ないから嫌だ。

蚊が鳴くような、小さな声でケンちゃんは言った。
首を傾げた。
ギターがないから嫌だ……。
そう言って、ケンちゃんはコップに桃のジュースをそそぎ、お盆に乗せるとおばあちゃんの部屋に向かった。
ギターがあればいいんだね?
歩いて行くケンちゃんの後ろから叫ぶと、ケンちゃんは振り返り、ものすごく極悪人のような顔でボクを見た。
俺のギターじゃないとダメだ……。
なんでそこまですごむかな?
わかったっ
………………
ケンちゃんは何か言いたそうな顔をしていた。
♪~
でも、だいたい何を考えてるかわかってたから、何も言わなかった。



それから、おばあちゃんと桃のジュースを飲んだ。
おいしいわね。
おばあちゃんは嬉しそうに桃のジュースを飲んでいた。
うんっ
……
ありがとう、

ケンちゃん、ショウちゃん。

どういたしましてっ
俺は別に……
ケンちゃんはショウちゃんの面倒をしっかりみてくれたでしょ。ショウちゃんだってこんなに嬉しそうだもの。
ボクはとっても嬉しかった。

桃のジュースがおいしかったこともあったけど、おばあちゃんが喜んでくれたことが嬉しかった。

……大したことじゃねーし。
ボソっと言って、ケンちゃんはジュースを飲む。
……!
コップを見て、『意外にうまいぞ』という顔をした。
みんなで飲むと

おいしいね。

ショウちゃんの言うとおりね。
もともと、桃のジュースがおいしいということもあるけれど、ひとり占めして飲むのではなく、みんなで分けて飲むと、もっとおいしくなるという魔法があるのだ。
……じいちゃんは?
あ……
あら?
忘れてた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色