11 それならシャベルで歌ってみよう

文字数 1,150文字

その日の夜、ケンちゃんはおじいちゃんの家のケンちゃんにあてがわれた部屋にいた。おじいちゃんの家は広いから、ひとりが一部屋使っても、まだまだ部屋はいっぱいあった。


ケンちゃんはおじいちゃんの文机に座り、ケンちゃんの前には問題集とノートが開かれていた。

でも、問題を解いているわけではなかった。


シャベルでは歌いにくい……。

ボクの言葉を反芻するかのようにケンちゃんはつぶやいた。




♪スコップコップ コップコップー♪

ケンちゃんはつぶやくように歌った。

意外とメロディがしっかりとしている。


それに意外とうまかった。

いい声、してるよね。

♪シャベルベル ベルベル……♪
スコップと同じように歌おうとしていたけれど、やっぱりしっくりこないようだ。
……文字が足りないのか?

そう言って、考え込む。


シャベルとスコップで文字数は一緒だけど、小さいヤと小さいツの位置が違うんだな。だからスコップの歌でシャベルは使えない。

♪シャベルがしゃべった シャーシャーシャベル♪
ケンちゃんは歌詞とメロディを変えてきた。
もう一回。
こそっと言ってみる。
♪シャベルがしゃべった シャーシャーシャベル♪

聞こえてたみたいだ。

ケンちゃんは少し大きな声で歌った。

いい感じ!
目立たないように言ってみた。

♪シャベール シャベール

シャベル、シャベルがしゃーべった♪

なんか、後ろの正面に行きそうなフレーズ?

まいっか。

もっと大きな声で行ってみよう!
魂の叫びをとどろかせるのだ。

♪シャベルがしゃべるぞ

しゃべればしゃべるときしゃべればしゃべる♪

意外とノリノリなケンちゃん。

ホントはケンちゃんも歌いたかったんだね。

三段活用!
ボクがそう言うと、ケンちゃんははっとしたようにこっちを見た。
……………………。
ケンちゃんは、信じられないものでも見たような顔をしていた。
ボクはケンちゃんの隣の部屋にいて、その間にあった唐紙(からかみ)を開けて、ケンちゃんを見ていた。

あのね、さっき、言えてなかったから

『おやすみなさい』って、言いに来たんだ。

ボクは極上の笑みを浮かべた。

これをすると、誰もが微笑み返してくれる。

……………………。

でも、ケンちゃんは寡黙だった。

いつも寡黙だったけど、いつも以上に寡黙だった。

おやすみ、ケンちゃん。
…………おやすみ。
ケンちゃんは何事もなかったかのように文机の上の問題集を解きだした。
…………。

ボクは笑いを噛み殺し、唐紙を閉めた。










しばらくすると

三段活用じゃねーし……。

というケンちゃんの声が聞こえてきた。

そっか、それが引っかかって止まっちゃったんだね。

ふふふ

微笑ましいな、ケンちゃんは。

でも……

(さすが、中学2年生だなぁ)


中二病の語源になるだけのことはある。

(次は、声をかけるのをやめて、最後まできちんと歌い上げるのを見届けてあげよう)

心の中で、ボクはそう誓った。
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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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