11 それならシャベルで歌ってみよう
文字数 1,150文字
その日の夜、ケンちゃんはおじいちゃんの家のケンちゃんにあてがわれた部屋にいた。おじいちゃんの家は広いから、ひとりが一部屋使っても、まだまだ部屋はいっぱいあった。
ケンちゃんはおじいちゃんの文机に座り、ケンちゃんの前には問題集とノートが開かれていた。
でも、問題を解いているわけではなかった。
ボクの言葉を反芻するかのようにケンちゃんはつぶやいた。
ケンちゃんはつぶやくように歌った。
意外とメロディがしっかりとしている。
それに意外とうまかった。
いい声、してるよね。
スコップと同じように歌おうとしていたけれど、やっぱりしっくりこないようだ。
そう言って、考え込む。
シャベルとスコップで文字数は一緒だけど、小さいヤと小さいツの位置が違うんだな。だからスコップの歌でシャベルは使えない。
ケンちゃんは歌詞とメロディを変えてきた。
こそっと言ってみる。
聞こえてたみたいだ。
ケンちゃんは少し大きな声で歌った。
目立たないように言ってみた。
なんか、後ろの正面に行きそうなフレーズ?
まいっか。
魂の叫びをとどろかせるのだ。
意外とノリノリなケンちゃん。
ホントはケンちゃんも歌いたかったんだね。
ボクがそう言うと、ケンちゃんははっとしたようにこっちを見た。
ケンちゃんは、信じられないものでも見たような顔をしていた。
ボクはケンちゃんの隣の部屋にいて、その間にあった唐紙 を開けて、ケンちゃんを見ていた。
ボクは極上の笑みを浮かべた。
これをすると、誰もが微笑み返してくれる。
でも、ケンちゃんは寡黙だった。
いつも寡黙だったけど、いつも以上に寡黙だった。
ケンちゃんは何事もなかったかのように文机の上の問題集を解きだした。
ボクは笑いを噛み殺し、唐紙を閉めた。
しばらくすると
というケンちゃんの声が聞こえてきた。
そっか、それが引っかかって止まっちゃったんだね。
微笑ましいな、ケンちゃんは。
でも……
中二病の語源になるだけのことはある。
心の中で、ボクはそう誓った。