13 桃を買いに

文字数 1,401文字

おばあちゃん

ケンちゃんと桃

買ってきていい?

おばあちゃんは乾いていた昨日の洗濯物をたたんでいた。
桃?
桃っ!
ご飯、

足りなかった?

ご飯と桃は別腹だよ。
じゃあ、

おじいちゃんが帰ってきたら、買ってきてもらうわね。

おじいちゃん

すぐ帰ってこないよ?

そうねぇ……。
おばあちゃんは困ったような顔をした。

あのね、おばあちゃん

ボクね、今、桃、食べたいな。

上目遣いをして、おねだりモードを発動した。
…………。
ケンちゃんが無言の圧力をかけてきたけど、それは華麗にスルーする。

桃が食べたいボクの気持ちはゆるがないし。

う~ん

でも、おばあちゃんは首を縦に振らなかった。
桃のジュースでも

いいんだけどな。

ちょっとだけ譲歩してみる。

それなら

中野ストアに行けばいいかしらね。

うん!
ちょっと待っててね。

そう言うとおばあちゃんはお財布を持ってきて、桃のジュースのお金をくれた。

ありがとう。
ニコニコとおばあちゃんに言う。

お店の場所はわかる?

おばあちゃんも嬉しそうにボクに言う。
わかるよ。

中野ストアはおじいちゃんの家の近くにある雑貨屋さんだった。

野菜やジュースやお菓子や雑誌も売っている。


八百屋さんがベースだけど、個人でやっている規模の小さいコンビニみたいなお店だった。

ケンちゃん

ショウちゃんをお願いね。

おばあちゃんがケンちゃんに言う。
大丈夫だよ!

おまえが

返事すんな。

ケンちゃんはボクに言ってから、おばあちゃんの方を向き、
わかった。

と、嫌そうなんだけど、真面目な顔で答える。


ボクの面倒を見ることに、異様なまでに執念を燃やしていた。ママ、そこまで頼んでないと思うんだけどな。リップサービスっていうか、その程度のモノなのに。


おばあちゃんはにこにこしてケンちゃんの頭をなでた。おばあちゃんにとっても、ケンちゃんは可愛らしい孫だからね。ボクが可愛い孫なのは言うに及ばずだけど。

気を付けて行きなさいね。
は~い。

行ってきます。

行ってきます……。
いってらっしゃい。
愛くるしい孫のはじめてのおつかいを見送るかのようなおばあちゃんの笑顔に見送られ、ボクとケンちゃんは中野ストアへ向かう。
ばーちゃん

困らせてんじゃねーよ。

おばあちゃんが見えなくなると、ケンちゃんが言った。
困らせてないもん。
金までもらってるし。
おこづかいをもらうのも

孫の(つと)めだよ。

そんな務めがあってたまるか。
滅多に会えない孫が遊びに来たんだから、無邪気に甘えるのが孫の務めだよ。
なんだ?

その都合のいい解釈のしかたは……。

負担をかけない程度に甘えないと、おばあちゃんも淋しいんじゃないかな?
…………。
ちょっとの間、ケンちゃんが黙る。

きっと、いろいろ葛藤しているんだろう。


自分の家から遠く離れた田舎に住む、おばあちゃんとの距離感がつかみづらいように見えた。

……無駄遣い

すんじゃねーぞ。

その結論に達したようだ。
無駄遣いじゃないよ。

おばあちゃんの分も買うし、みんなで一緒に飲めば美味しいよ。

…………。
しかも桃のジュースだもん。

ふつうのジュースの何倍も美味しいよ。

どうしてそこまで

桃にこだわるんだ?

そこに桃があるからだよ。
………………。
それからケンちゃんは返事をするのが面倒になったようで、黙って中野ストアに向かった。

もうちょっと楽しそうな顔とかできないのかな?


それとも、このムッとした顔がケンちゃんにとって楽しそうな顔なんだろうか。

それは聞いてみないとわからない。けど、聞こうとする前に中野ストアに着いた。

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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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