2 おじいちゃんの家の洞窟

文字数 2,523文字

じーちゃんち

帰るぞ。

ケンちゃんはそれまでのことをなかったことにしたようだ。
え~

嫌だよぉ~

電気、消すぞ。
ケンちゃんが洞窟の部屋の入口のスイッチに手をかけて言う。
ダメだよ。

真っ暗になるじゃん。

ケンちゃんのところに駆け寄って、スイッチにかけている手を退けた。
電気代

もったいないだろ。

もったいなくないもん。
ここは遊び場じゃねんだよ。

じーちゃんに怒られるだろ。

何を隠そう、ここはおじいちゃんの家の裏山の洞窟を利用した畑の収穫物を収納しておく部屋だった。手掘りの壁だけど意外にきっちりと部屋だった。
おじいちゃん

怒んないもん。

じーちゃんが怒んなくても俺が怒る。
怖い顔してケンちゃんは言った。
ケンちゃんの意地悪……
ちげーだろ。おまえがじーちゃんとばーちゃんに迷惑をかけないようにって、俺は叔母さんに頼まれてんだよ。
ママ

そんなこと言わないもん。

ケンちゃんがママの話をしたから、ちょっとだけ目が潤んだ。

春休みに入ってすぐ、ボクはケンちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに来ていた。


田舎だけど、住めば都という言葉がよく似合う田舎だ。

言ってんだよ。

じーちゃんの家にいる間は、俺がおまえの面倒をみないといけないわけ。

ケンちゃん、

面倒なんて見てくれないじゃん。

遊ぶのと面倒を見るは違うんだよ。

おまえは遊ぼうとしてるからダメなんだよ。

違うもん

ぷぅぷぅ

うるせーよ。

ほら、行くぞ。

ケンちゃんはボクの手を引っ張り、洞窟から出ようとする。
ダメだよ!

あの石をどかすまで行かない!

石ぃ?

どこだよ。

ケンちゃんがそう言ったから、ボクは掘っていた穴のところまで戻る。
この石
ボクがエネルギー充填120%のスコップの歌を必要としたのは、この石のためだった。

小さく掘られた穴に、灰色な石の一部が見えた。

ん……
ケンちゃんは穴の前にしゃがみ、石の周りの土を手でどける。

見えているのは石の一部だけのようだ。


ケンちゃんが土をどけても、どれくらい大きいのかはわからなかった。

これ、借りるぞ。
ケンちゃんはボクの返事を待たずにボクのシャベルを握る。
……
……
ケンちゃんは面倒くさそうな顔をして、石の周りを掘り出した。

魔法をかけていないのに、ケンちゃんはザクザク掘る。


ボクが目指していたくらい……、否、もっと早く、もっと力強く。

ザッザッザと、みるみる石のいびつな形が現れる。

ほら
ゴロンとボクの拳よりも大きな石を掘り出し、ケンちゃんはボクの前に転がした。
…………
小さいわけではないけれど、思っていたよりも小さい。

もっと大きくて何時間も掘らなければならない石が埋まってるような気がしたんだけど……。

どいたから行くぞ。
何でもなさそうな感じでケンちゃんは言った。

そしてボクを洞窟の出口方向へ小突く。

まだダメだよ。

この奥、ここを掘って行けば、きっと地底人がいるんだ!

ボクは意を決してケンちゃんに言った。
地底人?
険悪な顔でケンちゃんは言う。
そう、地底人。
頭にパッと浮かんだ言葉。

でも、ボクはそう言っていた。

いるわけねーだろ。
ペンっとボクの頭をはたく。
いるよ!

この先に、きっといるんだ!

いねーから。

さっさとじーちゃん家、帰るぞ。

いるもん!
いねえよ。
ボクの必死の訴えに、ケンちゃんは覚めた顔で言う。
だって……、

だってボクは地底人なんだ。

自分でもどうしてこんなことを言ってしまったのかわからない。
それで……

ボクはボクと違う地底人に会おうとして、この穴の先に行こうとしているんだ。

えっと、この設定でいってみようかな?
おまえが地底人なら俺も地底人か?
ボクはアレ? と思った。

ちょっと考えてみる。

ケンちゃんは違うかな?

ボクはずっとここにいたけど、ケンちゃんは外から入ってきたから。

仲間外れにされたのが嫌だったのか、ケンちゃんはムッとする。
おまえもすぐに

地底人をやめさせてやる。

ケンちゃんはボクの手を引っ張って外に行こうとした。
待って、待って

待ってったら。

渾身の力でケンちゃんの手を振り払う。
そういう気分で穴を掘ったら

楽しくない?

ケンちゃんがボクをじっと見る。
なぜ、

穴を掘る必要がある?

ニコリともしない。
そこに茶色い土があるからさ。
ノリで答えてしまったら、ケンちゃんが本格的にボクを外に連れ出そうとしてきた。
じーちゃんの倉庫に勝手に穴を掘るんじゃない。マジでじーちゃんが困るだろうが。
冬は温かく、夏は涼しい洞窟の中。

ここで遊ぶのはわりと楽しい。


ケンちゃんも、それを知ってほしいんだけどな。

でもね、でもぉ
でも、なんだ?
う……
言い訳でもあるのか?
ケンちゃんが怖い。
そ……、そういう風に考えて生活したら、楽しくない?
なにが?
ボクよりちょっと(20センチメートルくらい)高いケンちゃんがボクを見下ろす。
ボクとケンちゃんは

地底人なんだよ!

スッとその言葉が出てきた。

言ったらとても気持ちが軽くなった。

さっき違うって言ってたじゃん。
えっと……、

ケンちゃんは、これから地底人になるんだ。

なりたくねーよ、

んなもん。

なりたい、なりたくないは関係ないんだ。

気が付くと、地底人になってるんだ。

はぁ?
ケンちゃんはしばらく固まっていた。

無理もない。


突然、地底人だなんて言われたんだもの。

ボクもびっくりだよ。


この後、どうしようかな?

適当な設定、考えておくべきか?

じーちゃんとばーちゃんは?
あの二人のことも考えなきゃだよね。
えっと……、おじいちゃんとおばあちゃんは、昔は地底人だったんだけど、畑を耕してそれが認められて地上の人になれたんだ。
即席にしてはよくない?
俺とおまえは認められていないから地底人って、そう言いたいのか? 俺はおまえと同レベルだと?
えっと、えっと、

そうじゃなくて……

むしろ違うんだけどな……。

ボクは必死に考えた。

じゃあ、おまえは地底人なんだから

ずっとここに居ればいい。

ケンちゃんが怒ったように言う。
俺は地底人になりたくないから

ここを出て行くぞ。

…………。
ケンちゃんの言葉が、ボクにズキっと刺さった。
…………。
ケンちゃんはボクを置いて、外へ行く。
…………。
…………。
置いて行かれたくなかったら、来い。
ケンちゃんがボクに手を差し伸ばす。
うんっ
ボクはケンちゃんに走り寄った。
まったく、手間かけさせやがって。
えへへっ
ボクはケンちゃんの手を握って部屋を出た。
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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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