27 跡継ぎ
文字数 1,339文字
1170年頃 鞍馬山の木の根道の周辺
空には満月が出ていた。
深夜の山道を、木刀を持った牛若丸が走っていた。
目の前に現れた根を、ひらりと飛び越える。
硬い地面に入りきらなかった根が、道にうねっている。
慣れているためか、それにつまづくこともない。
張りのある声が暗い山に響く。
振り返り、声変わり前の高めの声で叫ぶ。
牛若丸は恨めしそうに叫ぶ。
天狗の面をかぶった男はすっとぼける。
おじいちゃんならするね。
笑ってごまかそうとしている。
木が二本、生えている場所を通り過ぎ、くるりと向きを変える。
牛若丸は上手に木をよけて、天狗の面の男に木刀で殴りかかる。
天狗の面のおじいちゃんは、軽々と木刀をよけて頭突きをかます。
おでこを押さえた牛若丸は、涙目でおじいちゃんを見上げる。
男の子だねぇ
牛若丸は悔しそうな目でおじいちゃんを睨み、小さく木刀を構える。
***
靴を脱ぐときに、玄関に放りっぱなしにしていた面を持って、おじいちゃんがお小言を言いに来た。
ケンちゃんはまだ帰ってきていなかった。
おじいちゃんは返事につまる。
ボクはお面を持って、確かめようとした。
おじいちゃんはお面を背中に隠して、ボクの手に触れないようにする。
本を置いて、天狗の面を受け取るために、おじいちゃんに手を伸ばす。
無言の抗議。
ボクはお面を受け取ろうと手を出した。
らっき~。
ちょっとの間、おじいちゃんはそこにいた。
本を読むのに集中したいから、そこにいられると邪魔なんだよね。
厳めしい顔で言った。
サクっと答えた。
しかたがないからうなずいた。