18 帰還(おじいちゃんのおうちへ)

文字数 1,869文字

ふぅ……
ケンちゃんは、泥だらけになって、ひと息ついていた。

手の甲で顔の泥を払う感じ、見慣れたけどいい感じだよね。

(羨ましくはないよ。ちょっとカッコイイなって思うけどっ)
……

なんかケンちゃん、ボクが家に帰ってる間、おじいちゃんの貯蔵庫に穴を掘ってたみたいだね。

けっこう深い感じになってる。ぱっと見、ケンちゃんが隠れるようになってしまっていた。


おっきいシャベル使ってるわけじゃないよね? 純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルで掘ってるんだよね?


すごくない?

力もだけど、根気もあるよね。


そんなに穴掘るの、楽しい?

せっかく田舎に来てるんだから、他に何かしてればよかったのに。

特にやることなかったし……
見つかった?

ボクはサッと物陰に隠れた。背負っていたケンちゃんのギターが邪魔だったけど、なんとか音もたてず。


あそこから見えてないよね?

ケンちゃん、穴掘ってるし、穴の中にいるし。

あれ?
なんで俺、

あんなこと言ったんだ?

無意識に言ってたわけ?

しかも、ひとり言って、なんかケンちゃん、よっぽど淋しかったんだね……。

…………
ボクは両手で口を押さえ、気配を消す。
…………
(無になれ……。ボクは無です)
まいっか……
ケンちゃんはまた穴を掘る。
(ここは通らない方がいいか……)
マジでおじいちゃんの貯蔵庫は迷路だし。

元々あった迷路みたいな洞窟を模様替え(メタモルフォーゼ)しただけだもんね。


ケンちゃんに見つからずに通れる道はある。

(そ~っと、そ~っと……)
ボクはケンちゃんに見つからないように、おじいちゃんの家を目指した。




***




玄関で靴を脱いで上がる。
おばあちゃん

ただいま~

廊下にいたおばあちゃんに声をかけた。
おかえりなさい。

遅いから、あっちに泊まるのかと思ったわ。

………………
どうしたの?
おばあちゃんって、すごいなって改めて思った。
すぐだもん。

おじいちゃんの家に帰るつもりでいたよ。

それにしては

遅かったんじゃない?

たしかに、夜の9時って、小3のこんなに可愛い子供がひとりで出歩く時間じゃないよね。しかもおじいちゃんの家はとっても田舎にあって、街灯も少ない。

パパとママと

夜景がきれいなレストランで食事してたんだ。

あらあら

いいわねえ。

変だって、思わないんだ……。
とっても美味しかったよ。

今度、おばあちゃんも一緒に行こうよ。

行けるかしら?

ふつうに行けば遠いもの。

大丈夫。

ボクが連れて行ってあげるよ。

まあ、

嬉しいわ。

うん。

楽しみにしててねっ。

はいはい。
おばあちゃんは嬉しそうに笑っていた。
(本気にしてないのかな?)
ふふふ、楽しみね。
見ているだけでほっこりするくらい、おばあちゃん、嬉しそう。

ホントに今度、連れて行ってあげよっと。

じゃあ、ボク、もう寝るね。

ちょっと疲れちゃった。

お風呂は?
おうちで入ってきた。
そう。

よかったわね。

うん
うなずいて、ボクの部屋に行こうとした。
……
でも、ちょっと気になることがあった。
ケンちゃんには、

ボクがギターを持って来たこと、黙っててね。

おばあちゃんは立ち止って、ボクが言うことを聞いてくれた。
はいはい。
笑顔でおばあちゃんがうなずいてくれた。
ケンちゃんに『どうしてここに俺のギターがあるんだ?』って、驚いてもらいたいんだ。
それなら

もう少し早く帰ってきた方がよかったんじゃない?

久しぶりにパパとママと会ったし……
かわいいショウちゃんを返したくなかったのね。おばあちゃんもショウちゃんがいなくて淋しかったわ。
ごめんね、

おばあちゃん。

いいのよ。

ショウちゃんが無事に帰ってきてくれて、よかったわ。

ありがとう。

おばあちゃんはとっても優しい。

もう少しおしゃべりしていたかったけれど、睡魔が襲ってきて、大きなあくびが出た。

疲れたでしょ?

早く休みなさい。

うん。

おやすみなさい……。

おばあちゃんにご挨拶をして、ケンちゃんの部屋に行く。

そして、ケンちゃんの動きを予測してみる。

う~んと、

こっちに行って……

ケンちゃんの部屋に入って、真っ直ぐに進む。

そして、立ち止って周囲を見回す。

ここがいいかな?
部屋に入ってすぐは目につかないけど、机に座って勉強をしようとすると、嫌でも目に入る場所。そこに、ケースからギターを出して置いてみた。
うむ。

イイ感じだね。

今日のボクは、このために動いていた。
いっぱい動いたな~。
けっこうヘトヘトだ。

唐紙を開けて、ボクの部屋に入ると、押入れから布団を出して敷いた。

おやすみなさい。
布団に入ってそう言った。

パパとママにも会えたし、楽しかった。

(ケンちゃん、どんな顔をするかな?)
明日も楽しみだなっ。
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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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