14 桃のジュース
文字数 1,622文字
中野ストアは中野さんがやっている。
基本は八百屋さん。野菜やくだものが並んでいて、そこがメインだけど、お菓子も置いてある。
奥に行けば文房具も売っている。
お店にいる中野さんに聞けば、その他の物も出てくる。
こじんまりしてるけれど、四次元ポケットのような個人商店だった。
ケンちゃんはじーっと陳列棚を見ていた。
いちごとか柑橘類とかキウイとか
今は春休みだもの。
ケンちゃんがボクを見た。
中野ストアは八百屋さんじゃないけど、そういうことにしておこう。説明がめんどうくさい。
ケンちゃんは答えなかった。
それは、ケンちゃんが桃のなる時期を知らないことに他ならなかった。
知ったのは最近だけどね。
桃がほしいと駄々をこねたら今は無理と言われた。それで、桃の花が実になると桃になることを知った。
1リットルのビンに入った桃のジュースを持ってケンちゃんに見せた。
1200円だった。
ケンちゃんは缶に入った手頃なジュースを手にしてボクに渡す。
缶の桃ジュースを返す。
ボクがそう言うと、ケンちゃんは諦めたのか缶の桃ジュースを元の場所にもどした。
そして、ポケットの中をゴソゴソ探る。
何をしているんだろう。
ケンちゃんはボクに百円玉を2枚くれた。
ケンちゃん、お財布、持ってないの?
ケンちゃんは照れたように、お店の外に出て行った。
奥にいた中野さんのおばさんに言った。
けっきょく、ボクはお財布から96円を出した。
そんな気分で、桃のジュースが入ったビンを持ってお店の外に出る。
ケンちゃんがもう百円くれた。
ケンちゃんは『ん』しか言わず、ボクに百円玉を突き出した。
ホント、素直じゃないな……。
そう言って、お財布にお金を入れるために桃ジュースのビンを地面に置こうとした。
ケンちゃんは、そのビンをボクから無理やり受け取る。
ボクはポケットからお財布を出して、小銭入れに百円玉を入れた。
それだけ言って、ケンちゃんはビンを持ったまま、おじいちゃんの家に向かって歩く。
ボクはお財布をポケットにしまうと、ケンちゃんの隣に行ってケンちゃんの手を握って歩いた。
ケンちゃんは手を払うわけでもなく、黙々と歩いていた。
この方法で、次もお金を払ってもらおう。