3 改めて言われるとわからない
文字数 1,942文字
収穫物をしまっている部屋を出ると、2mくらいの高さで人ひとりが歩けるくらいの幅の洞窟が続く。
手で掘ったところもあるけど、自然の洞窟の部分もある。
ここはウチのご先祖様も使っていた洞窟で、元々の使い道は収穫物をしまうことではない。
おじいちゃんがメタモルフォーゼ(模様替え)したのだ。
メタモルフォーゼは変身って意味だけど、ふつうの洞窟が農作物の収納場所に変わったってことで、使ってもいいだろう。
なんかカッコいい。
洞窟には工事現場にあるような電球が点いている。
線でつながってるやつ。それが入口の近くまで続いていた。
倉庫がロボットになったら、この線はきっとそのロボットを彩るクリスマスツリーの飾りみたいになるんじゃないかな? ロボットも飾れるなんて、なかなかの優れものだね。
明るいから歩くのに何も不安はない。
そう思った瞬間だった。
足に何かが当たり、ぐるっと景色が回る。
ボクは地面にうつ伏していた。
痛くはないが、軽く衝撃がきた。
顔を上げると、ケンちゃんは立ち止ってボクを見ていた。
ボクを起こそうともしない。
ボソっとそんなことをつぶやく。
たしかにボクは鈍くさい。
でも、これはない。
解ってるんだから、言わなくてもいいじゃん。
ケンちゃんは面倒くさそうに返事した。
これが返事だと言うのなら、ケンちゃんのママは怒るんじゃないかな?
ボクの面倒を見ると言うのなら、ホント、もうちょっと常識を身に着けてほしいよ。
ボクが転ぼうものなら、誰もが我さきに手を差し伸べ、ボクが何もしなくても起き上がっているというのに、ケンちゃんは見てるだけだった。
ケンちゃんは話をそらしてきた。
ケンちゃんは、しばし黙ってボクを見ていた。
ケンちゃんは、とても驚いていた。
って、怒った。
でもなんか、心配してるっぽい感じ。
ケンちゃん、すぐ怒るけど弱い人間を見捨てることができない。
慌てながら、そう言った。
ケンちゃんはボクを起こさずに、ボクの前でボクがしたのと同じ感じでうつ伏せになる。
ちょっとケンちゃんは考える。
ケンちゃんは見本をみせるかのように、ボクの前で肘をついた。
必死な形相でケンちゃんは言う。
しぶしぶと肘を付く。
ケンちゃんがちょっと怒る。
やってみたら意外と楽しい。
ケンちゃんが四つん這いになる。
それを真似する。
改めて言われると、なるほどと思った。
ケンちゃんは正座した。
座れた。
ふつうに嬉しい。
正座して正面に座っていたケンちゃんが、お小言のように言う。
おばあちゃんは優しくて親切だから、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが遊びに来る。おじいちゃんにも意外と人望らしきものがあって、何かあると皆でおじいちゃんの意見を聞きに来る。
ケンちゃんが知らない秘密をボクは知っている。
でも、それはまだ言えない。