3 改めて言われるとわからない

文字数 1,942文字

収穫物をしまっている部屋を出ると、2mくらいの高さで人ひとりが歩けるくらいの幅の洞窟が続く。

手で掘ったところもあるけど、自然の洞窟の部分もある。

(ちょっとだけ、探検隊みたいな気分)

ここはウチのご先祖様も使っていた洞窟で、元々の使い道は収穫物をしまうことではない。

おじいちゃんがメタモルフォーゼ(模様替え)したのだ。

(…………メタモルフォーゼって、カッコよくない?)
メタモルフォーゼは変身って意味だけど、ふつうの洞窟が農作物の収納場所に変わったってことで、使ってもいいだろう。
(倉庫がロボットになるみたい)

なんかカッコいい。


洞窟には工事現場にあるような電球が点いている。

線でつながってるやつ。それが入口の近くまで続いていた。


倉庫がロボットになったら、この線はきっとそのロボットを彩るクリスマスツリーの飾りみたいになるんじゃないかな? ロボットも飾れるなんて、なかなかの優れものだね。


明るいから歩くのに何も不安はない。

そう思った瞬間だった。


足に何かが当たり、ぐるっと景色が回る。

痛っ!
ボクは地面にうつ伏していた。

痛くはないが、軽く衝撃がきた。

…………。
顔を上げると、ケンちゃんは立ち止ってボクを見ていた。

ボクを起こそうともしない。

…………(どん)くさくね?

ボソっとそんなことをつぶやく。

たしかにボクは鈍くさい。


でも、これはない。

解ってるんだから、言わなくてもいいじゃん。

ねえ、ケンちゃん。
あ?
ケンちゃんは面倒くさそうに返事した。


これが返事だと言うのなら、ケンちゃんのママは怒るんじゃないかな?

ボクの面倒を見ると言うのなら、ホント、もうちょっと常識を身に着けてほしいよ。

キュートなボクが転んでるっていうのに、かけよって起こそうとか思わないの?
ボクが転ぼうものなら、誰もが我さきに手を差し伸べ、ボクが何もしなくても起き上がっているというのに、ケンちゃんは見てるだけだった。
んなことするかよ。

男なら自分で起きろ。

ねえ、ケンちゃん。
あ?
女の子だったら自分で起きなくていいわけ?
女だって、起きれるんなら自分で起きろ。
じゃあ「男なら」って必要?

「起きろ」でいいんじゃない?

…………。
男らしく、女らしくっていうのは時代に合っていないと思うんだけどな。

時代なんて知るか。

ってか、いつまで寝てんだ?

ケンちゃんは話をそらしてきた。
この議論に決着がついたなら

ボクは起きようと思ってる。

…………。
ケンちゃんは、しばし黙ってボクを見ていた。
「男なら」と付けたことが

おまえの気に障ったのなら悪かった。

別にそんなことないよ。
そうか?
うん
じゃあ、なんで起きない?
ボクはね、ケンちゃん。
…………。
転んだら、

起こしてもらえてたんだ。

…………。
起きるって

どうやるの?

?!
ケンちゃんは、とても驚いていた。
鈍くさいにも

程があるだろ!

って、怒った。

でもなんか、心配してるっぽい感じ。


ケンちゃん、すぐ怒るけど弱い人間を見捨てることができない。

まず、手……、

手を付くんだ。

慌てながら、そう言った。
起こしてくれないんだ。
んなことするか。

そんなことしてたら、おまえはいつまで経っても起きることができなくなるぞ。

ケンちゃんはボクを起こさずに、ボクの前でボクがしたのと同じ感じでうつ伏せになる。
…………。
ちょっとケンちゃんは考える。
手じゃなかったな。

まず肘だ、地面に肘を付けろ。

ケンちゃんは見本をみせるかのように、ボクの前で肘をついた。
(自分で寝てみて、頭の中で起き方のシミュレーションしてたんだな。ケンちゃん、真面目過ぎる)
ほら、俺の真似をするんだ。
必死な形相でケンちゃんは言う。
やれやれ
しぶしぶと肘を付く。
やれやれとか言うな。
ケンちゃんがちょっと怒る。
(あれ? なんか新鮮かも)
やってみたら意外と楽しい。
次は肘で地面を押す感じで膝をつく。
ケンちゃんが四つん這いになる。

ふんふん。

膝っと……
それを真似する。

改めて言われると、なるほどと思った。

それで手を付いて、起きる。
ケンちゃんは正座した。
とうっ
座れた。
えへへへっ
ふつうに嬉しい。

周りに誰も居なかったらどうするんだよ。

じいちゃんの家にはじいちゃんとばあちゃんと俺しかいないんだぞ。

正座して正面に座っていたケンちゃんが、お小言のように言う。
…………そうでもないんだけどな。
近所のジジババのことを言ってるのか?

アレだっていつもいるわけじゃないだろ?

おばあちゃんは優しくて親切だから、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが遊びに来る。おじいちゃんにも意外と人望らしきものがあって、何かあると皆でおじいちゃんの意見を聞きに来る。
…………。
おまえの家みたいに、叔母さんがつきっきりでいるわけじゃないんだ。自分でできることは自分でしろ。
ケンちゃんが知らない秘密をボクは知っている。






でも、それはまだ言えない。

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登場人物紹介

ショウ

小学3年生の男の子

ケンちゃん

ショウの従兄

中学2年生

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