17 その頃のケンちゃん
文字数 1,439文字
その頃のケンちゃんは……
おじいちゃんの家にいた。
家事をしていたおばあちゃんに声をかける。
いつも側にいたボクがいなくて、淋しかったんだね。
ゴメンね、ケンちゃん。
ボクは、ケンちゃんのためにがんばってたんだよ。
おばあちゃんは台所へ行った。
ケンちゃんは手持ち無沙汰な様子で、いつもみんなでごはんを食べている居間に行った。おじいちゃんの家の居間は畳にちゃぶ台。丸じゃなくて長方形のヤツ。そこにそれぞれの座布団が敷いてある。
決められた席に座る。
ケンちゃんはボクのお隣。
でも、ボクがいないから、ケンちゃん、なんだか淋しそう。
長方形のちゃぶ台に、ケンちゃんはひとりで座っていた。
おばあちゃんがニコニコして、お台所でお蕎麦をゆでているのが見える。
ケンちゃんは、ぼんやりとしていた。
でも、それはまるで、静かな田舎の時間を満喫しているようにも見えた。
たまにはそういうのもいいんじゃない?
ふだん、せっかちにガチャガチャ動いているもんね。
……おじいちゃん、帰っちゃったの?
ケンちゃんはすっと立ち上がり、玄関に向かう。無駄のない所作というヤツだな、うんうん。
玄関にはおじいちゃんが立っていた。
ケンちゃん、速いよね?
声がして、おじいちゃんが段差に座る前に着いている。
ボクが待ち遠しくて、そんなに速かったんだね。
うんうん、納得。
十分ボケてるよ。
おじいちゃん、ごまかすの下手過ぎ。
おばあちゃんがナイスなタイミングでやってきた。
持っているお盆には、二人分のお蕎麦が乗っていた。温かいお蕎麦。山菜がたくさん乗ってる。
おばちゃんのご飯も美味しいけど、おばあちゃんのご飯も美味しい。なんか、食べたくなっちゃった。おじいちゃんの家に戻ったら作ってもらおう。
おじいちゃんがカッコつけるの、なんかヤダな。
悪いってわけではないけど、孫の前っていうのがさぁ……。
おばあちゃんはサクっと流して、お蕎麦を居間に持って行く。
長年連れ添ってるだけはあるね。
サッサとちゃぶ台のケンちゃんとおじいちゃんの席にお蕎麦を置くと、自分の分を作るために台所へ行った。
おばあちゃんの後をついてきたおじいちゃんがおばあちゃんに言う。
取り付く島もない感じ。
おばあちゃんはてきぱきとお蕎麦を作っていた。
ちょっと寂しそうに、おじいちゃんは言った。
なんか、切ない響き……。
それから、おじいちゃんは居間のお蕎麦が置いてある自分の席に座る。
ケンちゃんはもう座っていた。
そして、不信感を漂わせ、おじいちゃんを見ている。
もう、ダメじゃん。なんのためにボクがケンちゃんに内緒でギターを取りに来たと思ってるの? あとでおじいちゃんに文句言っとかなきゃ……。