第8話 国王フレデリック陛下との邂逅

文字数 1,359文字

 私は見知らぬ男の人に抱き上げられたまま、固まってしまっていた。

「フレデリック様。いくら国王とはいえ、これはあまりのなさりようでは、ございませんか」
 クライヴは 、毅然として国王をたしなめた。
「相変わらず、かたいな。ジェシカは」
「あの。国王陛下?」
 思わず疑問形で言ってしまった。不敬だわ、私。抱っこされているから仕方ないのかもしれないけど、陛下を見下ろすなんて。
「ん? フレデリックで良いぞ。ここは公の場では無いからな」
「フレデリック様」
「様も、もったいぶった敬語もいらん。堅苦しいだろう」
 そう言いながら、私を優しく見上げてくる。なんだか懐かしさを覚えた。

「そなたは覚えておらぬだろうな」
 私をゆっくり降ろしながら、フレデリックが言ってくる。
「すまなかったな。懐かしさのあまりつい抱き上げてしまった」
「あのっ。もしかしたら、グルダナのお花畑でお会いしたお方ですか?」
 私は間違ったら大変な事になるのに、つい訊いてしまっていた。
 だって、まさかそんな事。

 フレデリックは、一瞬目を見開いて……そして、満面の笑みになる。
「おお。覚えておったか、セシリア。そなた幼かったから、てっきり忘れられていると思っていたぞ。さすがはピクトリアンの血を引いているだけの事はある」
「ピクトリアンの事をご存じなのですか?」
「ああ。そなたの母上がピクトリアン出身であろう? 常に結界を(まと)い、自然を味方に付け数千年間、世界を移動しているという。また、ある種の特殊能力を持ち、恐ろしく賢い一族だという一般的な知識だけだがな。また、婚姻を結ばせた国に、恩恵をもたらす存在としても知られておる」

 ピクトリアンの人間は頭は確かにものすごく良いし行動力もある。
 私の母を見ていても、純血種の特殊能力は素晴らしいと思う。
 だけど、今、フレデリックが言った事は本当に一般的な知識。所詮噂話に過ぎない。
 恩恵など……この頭の良さ以外、私はほとんど何も受け取った覚えはない。

「そうですか」
 私は、それだけの言葉をやっと言った。
 フレデリックは、私の頭をくちゃくちゃと撫ぜると、クライヴに言う。
「明日、王宮入りするのだろう? 説明は、もう済んでるのか?」
「フレデリック様が乱入さえしていらっしゃらなければ、説明が終わってる頃でした」 
 クライヴは、淡々と答えていた。
「おお。それはすまなかった。セシリア、王宮で会うのを楽しみにしているぞ」
 私の頭を、ポンポンとして、フレデリックは部屋を出て行ってしまった。

「失礼いたしました」
 クライヴは、私に頭を下げる。
「クライヴが謝る事では無いでしょう? それに相手は国王陛下なのだから」
「一応、あれでもわたくしの兄ですから」
 兄?
「……って事は、クライヴも王女様?」
「前国王の子ではありますが、身分的には違います。王になる者、政略結婚で国外に出されるもの以外は、全て臣下に下る事になっております」
「そう……なの」
 なんとなく、理由はわかるけど……。
「そういう事を含めて、今からご説明致します。よろしいでしょうか」
「はい」
 クライヴが居住まいをただしたので、私も何となくピンと背筋を伸ばしてお話を聞く体制になった。
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