第49話 逃げたクリストフとフレデリックのお部屋
文字数 1,304文字
「遅くなってすまなかった」
私が立てなくなっていることに気付いたのだろうか、フレデリックは子どもを抱っこするようにして次から次から出てくる涙を拭いてくれている。
まるで、先ほどの私の発言を聞いていない事にして……。
私は内心焦っていた。フレデリックは、私の発言を何と思っただろう。
「フレデリック。あの……わたくし」
「ん? ちょっと待ってろ」
そう言って私を抱き上げたまま、仕事の顔に戻って指示を出している。
まだ、私がダンスや所作の練習をしていた部屋はそのままだ。
侍女や護衛達はまだ倒れたまま。後から駆け付けた近衛騎士たちとクリストフとの攻防で、部屋の中も雑然としていた。
アンやセルマ、他の侍女たちは使用人用の部屋に戻し医師たちに見てもらうようにするらしい。必要なら、薬湯を処方してもらうように指示を出していた。
そして、フレデリックに付いてきたクライヴとアルベールが後の指示を引き受ける。
「さて、俺達も戻るか」
そう言ってフレデリックは、私を抱っこしたまま歩き出し、部屋を出て行った。
私はてっきり自分のお部屋に戻るのかと思っていたら、知らない廊下を歩いていた。
そして、凝った細工が施してある扉を開ける。
「あの……ここは」
ブラウン系でまとめてある広いお部屋だわ。私の部屋よりシンプルな印象がある。
「そういえば初めてだったな。俺の自室だ。マリア。セシリアの部屋から着替えを一式持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
マリアと呼ばれた年配の女性が、若い侍女たちに指示を出している。
フレデリックは、私を手近な椅子に座らせてくれた。
「そなたの侍女たちは、しばらく寝込んでしまうだろうからな。回復するまでここにいるがよい」
「はい」
かおり草の他になにか混ぜられたのだろうか。それともかおり草自体の作用なのだろうか。
さっき私はクリストフに普段なら言わない本音を言ってしまっていた。
今も、口を開いたら違う本音をフレデリックに言ってしまいそう。
「セシリア様。よろしければお飲みください。ホットミルクでございます」
マリアは優しい笑顔で、私にマグカップを渡してくれる。
「ありがとう」
私は素直にホットミルクを飲んだ。少し甘くて、体が温まってホッとする。
ホットミルクを飲んだ後、私の部屋から着替えを持ってきてくれた侍女たちに別室へ連れて行かれ、ゆったりとした寝間着に着替えさせられた。
フレデリックは、先ほどの発言について何も言わない。私も、何も言えない。
多分、お互い知っていたことが、言葉になっただけ。
夢が覚めてしまうのだろうか…………。
「落ち着いたか?」
着替えて椅子に座った私にフレデリックは声を掛けてきた。
「はい。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません」
下を向いたまま言った私に対し、フレデリックは溜息を吐いて、マリアに人払いするよう指示を出した。
指示通り人払いはしたけれど、マリアは目で『どうなさるおつもりで?』とフレデリックに訊いているような、非難めいた目を向けて退出していた。
私が立てなくなっていることに気付いたのだろうか、フレデリックは子どもを抱っこするようにして次から次から出てくる涙を拭いてくれている。
まるで、先ほどの私の発言を聞いていない事にして……。
私は内心焦っていた。フレデリックは、私の発言を何と思っただろう。
「フレデリック。あの……わたくし」
「ん? ちょっと待ってろ」
そう言って私を抱き上げたまま、仕事の顔に戻って指示を出している。
まだ、私がダンスや所作の練習をしていた部屋はそのままだ。
侍女や護衛達はまだ倒れたまま。後から駆け付けた近衛騎士たちとクリストフとの攻防で、部屋の中も雑然としていた。
アンやセルマ、他の侍女たちは使用人用の部屋に戻し医師たちに見てもらうようにするらしい。必要なら、薬湯を処方してもらうように指示を出していた。
そして、フレデリックに付いてきたクライヴとアルベールが後の指示を引き受ける。
「さて、俺達も戻るか」
そう言ってフレデリックは、私を抱っこしたまま歩き出し、部屋を出て行った。
私はてっきり自分のお部屋に戻るのかと思っていたら、知らない廊下を歩いていた。
そして、凝った細工が施してある扉を開ける。
「あの……ここは」
ブラウン系でまとめてある広いお部屋だわ。私の部屋よりシンプルな印象がある。
「そういえば初めてだったな。俺の自室だ。マリア。セシリアの部屋から着替えを一式持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
マリアと呼ばれた年配の女性が、若い侍女たちに指示を出している。
フレデリックは、私を手近な椅子に座らせてくれた。
「そなたの侍女たちは、しばらく寝込んでしまうだろうからな。回復するまでここにいるがよい」
「はい」
かおり草の他になにか混ぜられたのだろうか。それともかおり草自体の作用なのだろうか。
さっき私はクリストフに普段なら言わない本音を言ってしまっていた。
今も、口を開いたら違う本音をフレデリックに言ってしまいそう。
「セシリア様。よろしければお飲みください。ホットミルクでございます」
マリアは優しい笑顔で、私にマグカップを渡してくれる。
「ありがとう」
私は素直にホットミルクを飲んだ。少し甘くて、体が温まってホッとする。
ホットミルクを飲んだ後、私の部屋から着替えを持ってきてくれた侍女たちに別室へ連れて行かれ、ゆったりとした寝間着に着替えさせられた。
フレデリックは、先ほどの発言について何も言わない。私も、何も言えない。
多分、お互い知っていたことが、言葉になっただけ。
夢が覚めてしまうのだろうか…………。
「落ち着いたか?」
着替えて椅子に座った私にフレデリックは声を掛けてきた。
「はい。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません」
下を向いたまま言った私に対し、フレデリックは溜息を吐いて、マリアに人払いするよう指示を出した。
指示通り人払いはしたけれど、マリアは目で『どうなさるおつもりで?』とフレデリックに訊いているような、非難めいた目を向けて退出していた。