第54話 アダモフ公国の商人たち

文字数 1,221文字

 ギャバン陸軍大臣の率いた隊はとても優秀で、アダモフ公国の商人と小隊を本当に全員無傷で捕縛して帰って来た。
 取り調べに、私は立ち合わせてもらえなかったけれど、外交での決定事項が伝わっていなかっただけだと主張しているそうだ。
 私はフルマンティ宰相に教えて貰って、アダモフ公国に抗議文を送っていた。

「おかしいですね。単に伝わっていないのであれば、あちらの正規軍が最初から護衛に付くはずもないですし」
 宰相の言う通り、今回商人たちの護衛には初めからアダモフ公国の正規軍が付いていた。
 憶測で言うには事態が大きすぎて、みんな口には出さないけれど……。

 クリストフの策略にオービニエ外務大臣とアダモフ公国が乗って行動をしている。
 アダモフ公国は、アルンティル王国が今のシステムになる前にアダモフ公爵が独立して建国した公国だ。
 未だに国内の、自分の領地から出て来ない上位貴族たちと繋がりもある。
 だから今回の外交交渉も、あちらに有利な時期を持っていかれてしまったんだわ。

 ただ、今回うちの商人達と小競り合いになったのは本当に偶然なんだろうと思う。
 正規軍を護衛につけての行商なんて、理由は一つしかない。
 かおり草を何かに加工して、アルンティル王国国内に持ち込むためだろうから、他国とトラブルを起こして積み荷を改められでもしたら困ると思う。

 これだって、全て私の憶測だわ。だって何も証拠がない。
 もうお手上げね。所詮私の外交術は嫁いだ先と出身国の橋渡しの為に教育されたものだもの。
 こんな風になってしまったら、私にはどうしようもない。
 調べようにも、駒も持っていないから、裏も取れないもの。


 アダモフ公国の商人たちの取り調べが終わった数日後、フレデリックからの依頼で、私は商人たちが持っていた荷物を一つ一つ改めていた。
 そしてかおり草のにおいが漂う工芸品たちを見付けてしまった。
 木製の人形の中はくりぬかれ、その中に粉末にしたかおり草がたくさん詰まっていた。


 
 そうこうして、かおり草の密輸の証拠を私が見付けている間に、フルマンティ宰相が投獄されてしまった。
 かおり草が、自分達の荷物から見つかったと知るや否や、アダモフ公国の商人たちはフルマンティ宰相からの依頼だと口をそろえて言い出したのだという。

「そんなバカな……」
 フルマンティ宰相が投獄されたと聞いた時、私は思わず言ってしまった。
 最初からフルマンティ宰相から、かおり草のにおいなどしなかった。
 私もかおり草の特性を知らなかったから、最初は疑った。だけど、かおり草は現物を少しさわるだけ……執務室のような狭い部屋に置くだけでも、においが衣類についてしまう。
 フレデリックの広い方の執務室ならまだしも、フルマンティ宰相の執務室なら焚きしめる必要も無いわ。

 私は何かの間違いではないかと、フレデリックの執務室に向かって行った。
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