第29話 セシリア姫の女官姿とオービニエ外務大臣の執務室
文字数 1,562文字
「フルマンティ宰相の執務室からも宰相自身からも毒草のにおいは感じ取れませんでした」
私はフレデリックに抱っこされての移動中、そう報告した。
「そうか……」
それだけを言って、自分の執務室では無く。私の部屋へ連れて行かれる。
アルベールは、書類を持ってフレデリックの執務室に向かうようだけど。
部屋へ着き、アンが用意した椅子に座らされた。フレデリックは私の目の前、床に跪くように座って私の足から靴と靴下を脱がせて自分の膝に乗せた。
部屋を整えていたアンとセルマが焦っている。私も焦った。
国王を跪かせて、そのお膝に足を乗せるなんてありえない。
「あ……あのっ」
男の人に素足を見られるなんて初めての事で、恥ずかしい。
足を引っ込めようにも、しっかり持たれてしまっていて動かせない。
「ふむ。少し赤くなっているようだな。これくらいなら、少し冷やして薬を塗れば治るか……。アン、そのように処置を頼む」
「はい。かしこまりました」
アンは礼を執ってから冷たい水と薬を取りに部屋を出て行った。
「すまぬな。まだ仕事が終わらぬ。今日はもう治療をしてもらって休んでおれ」
そう言ってフレデリックは、仕事に戻って行ってしまった。
数日、女官の仕事を続けているうちに、毒草を持ち込んだ人間の特定が出来た。
オービニエ外務大臣とラクルテル外務大臣補佐。
他に側近からもにおいはしているが、移り香とみて良いだろう程度だ。
でも、主犯だろう本人たちからも、日に日ににおいが消えていっている。持ち込んだ当初のにおいはしていない。
実際に関わっているのが大物過ぎて、フレデリックでもすぐに手が出せない相手だった。
身分的には子爵なのだけど、下手に手を出したら、今の外交ルートを潰しかねないのだそうだ。
「なんとも、頭の痛い事だな」
フレデリックが私の前でぼやいている。
フレデリックには悪いけど、私の仕事はここまでだわ。
表の政治的なお仕事は、私には出来ない。
後は、執務室に毒草のにおいがまた充満しないように見回りを兼ねて書類を運んでいるだけ。
そうそう、私も女官の制服を作ってもらえたの。ただ、他の方々は紺や茶系の女官服なのに、私のはワインカラー。靴も同じ色だ。
女官服になって、ずいぶんと楽に仕事が出来るけど、私は本当に何をしに来たんだろう。
アルベールを連れて、オービニエ外務大臣の執務室に書類を取りに行った。ノックをすると中から扉を開けてくれる。もう、どの執務室に行っても、私が来るのが分かっているので、大臣自ら開けてくれるようになっていた。
「セシリア様。書類は出来ておりますぞ。少々、お待ちを……」
扉のところから、中の様子を見る。なんだか、来客中のようだった。
誰だろう? 一度でも見かけていれば、覚えているのに。彼は見覚えが無い。
スラっとしたたたずまいで、上着が足の中ほどまであり柔らかそうなズボンが見える。
髪の色は、逆光になってわかりづらいけど、多分栗色で少し短めだ。
あの服装は、どこかで見たような気もする。
「セシリア様? こちらでよろしいですか?」
ボーっと、中にいる男の人を見ていたら、オービニエ外務大臣から声を掛けられた。
「不備がございましたら、こちらから参上いたしますと陛下に伝えて頂けますか?」
にこやかにそう言うので、私もにこやかに返す。
「わかりました。必ずそう伝えます」
この閉鎖的な王宮に、外部からの来客があっても良いものだろうか。
謁見の間も、外部の人間とのものは西の建物内にあるのに……。
後ろに控えていたアルベールも、何も言わない。
私は、疑問を持ちながらオービニエ外務大臣の執務室を後にしたのだった。
私はフレデリックに抱っこされての移動中、そう報告した。
「そうか……」
それだけを言って、自分の執務室では無く。私の部屋へ連れて行かれる。
アルベールは、書類を持ってフレデリックの執務室に向かうようだけど。
部屋へ着き、アンが用意した椅子に座らされた。フレデリックは私の目の前、床に跪くように座って私の足から靴と靴下を脱がせて自分の膝に乗せた。
部屋を整えていたアンとセルマが焦っている。私も焦った。
国王を跪かせて、そのお膝に足を乗せるなんてありえない。
「あ……あのっ」
男の人に素足を見られるなんて初めての事で、恥ずかしい。
足を引っ込めようにも、しっかり持たれてしまっていて動かせない。
「ふむ。少し赤くなっているようだな。これくらいなら、少し冷やして薬を塗れば治るか……。アン、そのように処置を頼む」
「はい。かしこまりました」
アンは礼を執ってから冷たい水と薬を取りに部屋を出て行った。
「すまぬな。まだ仕事が終わらぬ。今日はもう治療をしてもらって休んでおれ」
そう言ってフレデリックは、仕事に戻って行ってしまった。
数日、女官の仕事を続けているうちに、毒草を持ち込んだ人間の特定が出来た。
オービニエ外務大臣とラクルテル外務大臣補佐。
他に側近からもにおいはしているが、移り香とみて良いだろう程度だ。
でも、主犯だろう本人たちからも、日に日ににおいが消えていっている。持ち込んだ当初のにおいはしていない。
実際に関わっているのが大物過ぎて、フレデリックでもすぐに手が出せない相手だった。
身分的には子爵なのだけど、下手に手を出したら、今の外交ルートを潰しかねないのだそうだ。
「なんとも、頭の痛い事だな」
フレデリックが私の前でぼやいている。
フレデリックには悪いけど、私の仕事はここまでだわ。
表の政治的なお仕事は、私には出来ない。
後は、執務室に毒草のにおいがまた充満しないように見回りを兼ねて書類を運んでいるだけ。
そうそう、私も女官の制服を作ってもらえたの。ただ、他の方々は紺や茶系の女官服なのに、私のはワインカラー。靴も同じ色だ。
女官服になって、ずいぶんと楽に仕事が出来るけど、私は本当に何をしに来たんだろう。
アルベールを連れて、オービニエ外務大臣の執務室に書類を取りに行った。ノックをすると中から扉を開けてくれる。もう、どの執務室に行っても、私が来るのが分かっているので、大臣自ら開けてくれるようになっていた。
「セシリア様。書類は出来ておりますぞ。少々、お待ちを……」
扉のところから、中の様子を見る。なんだか、来客中のようだった。
誰だろう? 一度でも見かけていれば、覚えているのに。彼は見覚えが無い。
スラっとしたたたずまいで、上着が足の中ほどまであり柔らかそうなズボンが見える。
髪の色は、逆光になってわかりづらいけど、多分栗色で少し短めだ。
あの服装は、どこかで見たような気もする。
「セシリア様? こちらでよろしいですか?」
ボーっと、中にいる男の人を見ていたら、オービニエ外務大臣から声を掛けられた。
「不備がございましたら、こちらから参上いたしますと陛下に伝えて頂けますか?」
にこやかにそう言うので、私もにこやかに返す。
「わかりました。必ずそう伝えます」
この閉鎖的な王宮に、外部からの来客があっても良いものだろうか。
謁見の間も、外部の人間とのものは西の建物内にあるのに……。
後ろに控えていたアルベールも、何も言わない。
私は、疑問を持ちながらオービニエ外務大臣の執務室を後にしたのだった。