第10話 お姫様の王宮入り

文字数 1,297文字

 翌日、クライヴが言った通り迎えの文官と立会人が来て私に王宮入りの意志を訊いてきた。
 型通り、私は快諾して馬車に乗り込む。

 よく考えなくても、この状況で断る姫君はいないわよね。
 自国の為にここに来ているのだから、生涯王宮から出られないと言われても従うしかない。

 だいたいね。
 お姫様なんて、王宮内にいるものなのよ。お茶会だって貴族を呼んで王宮内のサロンとかでするんだろうし。普段は大人しく自室にいるかお外に出ても中庭を散策するか……。
 その程度よね。
 私みたいに、ホイホイ城下町に遊びに行く方がおかしいんだわ。
 ええ、そうよ。お外に出られない方が、普通なのよ。

 私は一生懸命、自分に言い聞かせていた。……って、私ってつくづく普通じゃ無かったんだわ。馬車の中で、ため息を吐いてしまった。


 王宮に着いたら、文官の方が案内係として待っていてくれた。
 護衛で西の建物から付いてきた近衛騎士と共に、私の部屋に案内される。

 私のお部屋だといってあてがわれたのは、このお城で一番ながめが良い場所なんだそうだ。
 代々、王妃様が使っているお部屋だと言うけれど、さすがに何もかもが新品で可愛らしく整えられていた。
 なんと、くまやうさぎの大きなぬいぐるみまである。
 私の事、幼児だと思っているのかな。
 でも、お部屋自体、かなり広くて落ち着かない。奥にも何部屋かあるし。

 ちょっとしたお茶会が開けそうなお部屋と召し替え用の部屋は良いとして、奥の書斎風のお部屋、寝室も合わせたら普通の民家が丸ごと入りそう。

「さぁ、お召し替えを致しましょう」
 私が案内されたまま、ボーっと部屋を見渡していると、アンが私をお召し替えをする部屋に促す。
「では、わたくしはその間にお茶の用意をして参りますね」
 そう言って、セルマも通常通りと言う感じで働きだした。


 自室に着いて、お茶を飲んでくつろぐだけなのに、何で人前に出るような衣装を?
 と思っていたら、クライヴが侍女や召使、護衛の近衛騎士たちを連れてやってきた。
 今日から私のそばで、働く人々なので、着いた早々対面をしてしまおうという事だった。
 
 そうね、侍女や使用人。護衛の方々が入ったら、そんなに広くないわ、この部屋も……。
 
 それぞれの挨拶を聞いているうちに、結構な時間が経ってしまったようでまたすぐに、お召し替えをと言われてしまう。
 
 今後のスケジュールは、主に婚礼の儀の準備だという。
 ここでの身分は妾か側室だと思っていたので、そんなこと考えもしなかった。
 その身分だと、夜伽が事実上の婚姻になってしまうので、お披露目もしない。

 だけど、陛下……フレデリック様とは婚礼の儀まで会えないらしい。
 王族の婚姻としては、会えない方が普通なので仕方がないとは思うのだけど。
 婚礼が初対面と言うのも何だかなぁって、いつも思うわ。

 その日、落ち着かないと思った自室の寝室で大きなベッドに入った。
 ベッドはふかふかで気持ち良い。
 私は、疲れ切っていてあっという間にそのベッドで寝入ってしまった。
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