第68話 婚礼の準備とエイヴリル様へのお見舞いの返礼

文字数 1,866文字

 日にち薬、とはよく言ったもので、エイヴリル様からお見舞いを頂いた二週間後には、もうすっかりとまではいかないけど、婚礼の儀には充分臨めるのではないかというくらい、回復していた。

 美しく見える歩き方、所作等の練習も再開させている。先日、お手本のようなエイヴリル様の所作を再現しようと私は努力を始めていた。
「素晴らしいですわ、セシリア様。どこか儚く見えるような……何か、動くたびに目を惹かれてしまいます」
 褒め殺し? 自分ではそんなに出来て無いと思うのに、ほめて伸ばすのが、先生のやり方なのね。

 婚礼衣装が出来上がって来て、微調整が終わるとアンが言ってきた。
「フレデリック様にセシリア様の体調を聞かれても、まだ調子が悪いと言って下さいね」
「何? 突然。体調を訊かれるも何も、忙しくて最近はお会いできてないわ」

 ピクトリアン王国からの調査書のおかげで、婚礼前には大方の処分が決まってしまうらしい。
 そのせいでか、フレデリックはここのところ、まともにお休みが取れていない。
 私は私で、世界中から集まると言っても過言ではない王族、貴族の前で恥をかかないように、礼儀作法の確認に余念が無いと言った感じなのである。
 公式の場でならまだしも、私的な場所で全く会えていない状態なのである。

「それならば、婚礼の儀までお会いしない方がよろしいかもしれませんね」
 にこやかにアンは言っているけど、意味が分からないわ。
 ここに来た当初、国の方針で、婚礼の儀まで国王と王妃は会えないって言ってたけど、アンって、保守主義だったっけ?
 まぁ、会えないでしょうけどね。
「そうね。ところで、婚礼の儀の前にエイヴリル様へお見舞いの返礼に伺いたいのだけど、ご予定を調べて来てくれるかしら」
「かしこまりました。早いうちがよろしいですものね。すぐに調べて参ります」

 そう言って、アンは部屋を出ていく。
 侍女仲間に訊けば、すぐにわかるだろうから、私は訪問カードの準備でもしようかしら。
 ああ、そうそう。手土産に刺繍を施したハンカチ、う~ん、そうね飾り襟でも……。

 私はいそいそとカードの作成と刺繍をする準備を始めたのだった。

 

 訪問カードに色よい返事を頂き、私は侍女のアンを先導にエイヴリル様のお部屋に向かっていた。
 突然、アンがスッと横へ避け礼を執ったので何事かと思ったら、前からフレデリックがやって来ていた。
 私もフレデリックが通れるくらいの道幅を残して避け礼を執る。
「おお。姫どこに行くのだ?」
「エイヴリル様のお部屋へ。お見舞いの返礼に参ります。フレデリックはお仕事はもう終わられたのですか?」
「あっ、いや。そなたに用事があったのだがな」
 フレデリックは、あからさまに考える素振りをしている。
 何かあったのかしら?
 ここには、アンもいるし廊下の護衛もいる……。その状態では、言えない事なのかしら?

「急ぐわけでは無いからな。母上の所から戻ったら教えてくれ」
 フレデリックは私ではなく、アンの方を向いてそう言い付けた。
「かしこまりました」
 アンが礼を執ったままそう言うと、フレデリックは来た道を引き返して行った。


「手慰みに作ったもので、お好みに合うかどうかわかりませんが、よろしかったらお使いくださいませ」
 私は、レースで作った付け襟をお見舞いの返礼としてお渡しした。
「まぁ、素敵。ありがとう。お茶会の時にでも使わせていただくわね」
 お互い定番のセリフ。
 だけど、臣下の奥様方とお茶会でもなさっているのかしら? このお城と敷地内は一度入ったら生涯出られないハズなのに……。

「あら? 不思議そうなお顔」
「あ……いえ。この王宮でお茶会があるとは思いませんでしたので」
「そうねぇ。まぁね。抜け道はあるのよ、色々と」
 エイヴリル様は、ニッコリ笑ってそういう。

「ああ。ご案内もしないでごめんなさいね。どうぞこちらへ」
 お部屋のサンルームのようになっているところにお茶会の用意をしている。
「こちらへ、どうぞ」
「ありがとうございます」
 私は、勧められるまま座った。
 お茶会というには少し簡素だ。
 こちらが気を遣わなくて良いように、もてなしは最小限に留めている。
 それはそうだ。今私がいる場所が、フレデリックの部屋でなければ、返礼のおもてなしは私の部屋でしなければならないものなのだから

「他人行儀だったわね。わたくしたち親子なのに」
 エイヴリル様はにこやかに私を受け入れてくれた。
「お母様」
 そうね。無粋だわ。フレデリックと本当の親子かどうかなんて。
 私の事も我が子だと言って下さるのだから。
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