第44話 ピクトリアン王国からの帰国

文字数 941文字

 真っ暗な中、目が覚めた。
 柔らかいベッドの中。いつの間にか自分の部屋のベッドに戻って来たみたい。
 すぐそばにはフレデリックのお顔が見える。久しぶりに抱きしめられて眠っていたようで、まだ腕の中にしっかり抱きこまれていた。

 気持ち良い。なんでだろう。フレデリックの気配が、ぬくもりが本当に心地よい。
 思わず私はフレデリックの腕の中、もっと深く潜り込んだ。
 そしてもっと感じたくて、深く息を吸い込む。

「セ……セシリア?」
 なんだか少し焦ったような声が頭の上から聞こえた。
 起こしてしまった?
「すみません。起こしてしまいましたか?」
「いや。起きてはいたのだが……。大丈夫か? セシリア」
 体調は平気なのだけれども。

「私は、非公式の会談の後から、今までの記憶がありません」
 正直に言った。本当にどうやって帰って来たのだか分からない。
「そうか……いつも通りだと思っていたが。そなたが持ち帰った『かおり草の解毒の薬草』はすでに、各部署に配り使わせておる。診療所や教会に配っても余りあるくらいの量だ」
「それは、良かったです」

「セシリア? そなた、自分の意志とは関係なくここに戻されたのでは無いのか?」
 フレデリックは、伺うように訊いてくる。
「わたくしは、ここに戻ってきたかったです」
 そう言ってフレデリックにしがみ付いた。すぐさま抱き込まれる。
「よく戻って来てくれたな」
 少し抱き込む力が強くなったかと思うと、フレデリックは言ってくる。
「もう、戻ってこないと思っていた。せっかく、逃げるチャンスを与えたというのにな」
 逃げるチャンス? 
「もう逃がさない」
 暗くてフレデリックの顔がよく見えない。分かるのは、強く抱きしめられているという事だけだ。
 でも、怖い雰囲気でもないので戸惑ってしまう。

「あ……あの。苦しい」
 私がそう言うと、少し力が緩んだ。まだ抱きしめられたまま、額に口付けをされる。

「今日はもう疲れただろう? おやすみ。セシリア」
 フレデリックの優しい声が聞こえてきたけど、こんなに抱きしめられたまま寝れるかしらとは思う。
「おやすみなさい。フレデリック」
 だけど私は、お休みの挨拶だけをして、そのまま目を閉じた。
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