第28話 セシリア姫と宰相 

文字数 885文字

 私は、こけてた状態のまま、目の前の惨状をぼーぜんと見てしまっていた。
 いや、このまま見入ってしまっていてはいけない。

「ごめんなさい」
 慌てて起き上がり、ばら撒いてしまった書類をかき集める。足が痛い。
 書類の順番もバラバラになってしまっていた。
 どうしよう。
 私が途方に暮れそうになっていたら、スッと目の前に手が出てきて、書類を順番に並べ替えてくれている。

「ありがとうございます。本当にごめんなさい。フルマンティ宰相」
 宰相が私の目の前に座り、書類を拾いながら元の状態に直してくれていた。
 ふ~っと、ため息を吐かれてしまう。
「全く、陛下にも困ったものですね」
 整えた書類をアルベールに渡し、私をヒョイっと抱え上げ立たせてくれた。

「女官として仕事をするのであれば、ドレスを着るのをやめて、靴も仕事用の靴を履くべきだと思いますが」
「ごめんなさい」
「こちらで、女官の制服を用意しても良いのですが、陛下が良い顔をなさらないでしょうね。女官の仕事もなかなかに厳しいものです。そもそも王妃様のする仕事ではありません」
「……そうですね」
 宰相は当たり前のことを、当たり前に言っている。
 だけど、どうしよう。立っているのがやっとで、歩けない。

「遅いと思ったら、こんなところでなにをしておる」
 フレデリックが私を抱え上げ、そのまま抱っこした。
 宰相は、今起きた事をそのまま報告している。
「申し訳ございません。私が気付けば良かったのですが……」
 報告の後に宰相は謝罪を付け加えた。
「そんな、わたくしが立って待つと言ったのです」
「ふむ。まぁ良い。それで、書類は出来上がっておるのか?」
 フレデリックは、私たちのやり取りには、興味なさげに仕事の事だけ訊いてきた。
「はい。こちらに預かっております」
 アルベールが無表情に、預かったばかりの書類を見せて言った。

「ならば良い。邪魔をした」
 フレデリックはそう言って、私を抱っこしたまま歩き出す。アルベールがそのすぐ後ろから付いて来てる。
 宰相は臣下の礼を執り、私達を見送っていた。
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