第40話 セシリアの外交

文字数 1,220文字

 どこの国でも、外交で女性が同行する時は、たいていの場合補佐的な役割をしている。
 だから、出来るだけ目立ち、こちらに目を向けさせなければ、主導権は握れない。
 
 私は、出来るだけ上品で人目を引くドレスで、この前フレデリックを絶句させたお人形のように磨かれた私でいこうと思った。
 外交の席に着いているのは、ほとんどが男性。
 美しく装い、少し幼めのお人形のような容姿の女性がニコリともせずにいれば嫌でも目を引く。

 そして……
「アルンティル王国、国王陛下の命により、この度外交の任を賜りました。セシリア・ピクトリアン・グルダナと申します。なにとぞ、よろしくお願い申し上げます」
 相手国の言葉で、私が外交のメインであることを宣言し、ピクトリアンの国名が入った名前をしっかり告げた。

 オービニエ外務大臣が、分からない言葉で……。 


 私の外交は、全て相手国の言葉で行っている。
 フレデリックから、オービニエ外務大臣と同じ裁量権を貰い、事前に打ち合わせをし落としどころまで聞いて挑んでいる。
 今までは、こちらの方が立場が上と言う事で、相手国がアルンティルの言葉で話したり、通訳を介しての外交が主であった。
 それに対し、今の私の外交である。今まであった意思の齟齬(そご)も軽減されていった。

 今のところは上手くいっている。だけど、ハッキリ言って自信は無かった。
 外交をすること自体ではない。
 ずっとアルンティルの外交を担ってきた大臣を出し抜くという事に対してだ。

 フレデリックに頼んで、お願いではなく命令にしてもらったのは、自分が甘えない為。
 国王陛下の命令には従うしか選択肢が無く。必ず国王陛下の望む結果を出さなければならない。
 これは、どこの国でも同じなので、あえていう事でも無いのだけれど。

 最初は、オービニエ外務大臣も王妃教育の一環だと思い、何とも思っていなかったようなのだけど、最近は少し焦りが見えている。
 徐々に自分が会話から外されていっているのが、わかるからなのだろう。

 自分の国の言葉で交渉できるのに、誰が好き好んで慣れない相手国の言葉を使うであろう。
 いちゃもんを付けられても文句が言えない力関係なのに。
 しかも私は、裁量権まで持っている。
 もう、オービニエ外務大臣に話を振る必要すらない。

 大臣は何か言いたげにしているけど、不敬に当たると思っているのか、何も言ってこない。
 相手国が私を子ども扱いしていないのも、腑に落ちないのだろう。
 何のためにピクトリアンの国名が入っている名前を出していると思っているのか。

 そう……私は、大人のふりをしている。

 30歳近い年齢の国王陛下の婚約者なら、当然成人しているだろうと。
 外見がいかに幼く見えようとも、ピクトリアンの血を受け継いでいるのなら、その成長は自分達よりはるかに遅いのだろうと……そう思わせるために。
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