24.活動方針と頼
文字数 1,524文字
スタジオでの最終練習が始まった。ここで本番さながらの通し練習をする。最終的な流れを決め、セットリストを確認し、お約束のアンコールでやる曲までを演奏していく。
二時間ぶっ続けのスタジオリハーサル。喉の調子を見ながら、楽器のご機嫌もうかがっていく。
僅かな調整を間に挟み、スタジオリハを終えた。
汗を拭い、喉を潤し、スタジオ内に置かれている椅子に腰かける。
「いい汗~」
省吾が喉を鳴らして水を飲んだ後、タバコに火をつける。瞭も止めどなく浮き出てくる汗を拭いながら煙草を取り出した。
そんな二人に改まって、話を振った。
「ちょっといいか」
タバコの煙を盛大に吐き出した省吾が、「今から曲変えるとか勘弁だよぉ」と唇を尖らせる。長年俺の我儘に付き合ってきているだけに、先読みする癖がある。
「いや。今日は違うんだ。変更がなくて、悪いな」
皮肉って笑うと、じゃあなんだよ。とでも言うように、訝しい顔つきをする。
そんな省吾と、黙ったまま煙草をふかす瞭に向けて、椅子から立ち上がり頭を下げた。
「今まで、無理言ってきてゴメン」
突然頭なんか下げるものだから、らしくない行動に省吾が慌てだした。
「えっ、ちょっと、なんだよ。頭なんか下げんなよっ」
頭を上げると、動揺した省吾が吸っていた煙草を空の缶にグリグリと擦り付け捨てた。
「色々考えた結果、吹っ切れたんだ」
「……吹っ切れたって」
省吾が不安な顔をしている。そんな顔をさせるくらい、今まで心配ばかりかけてきたんだな、と改めて感じていた。けど、それも今日までだ。
「この前。岩元のおっさんに言っておいたんだ」
「なっ、なんて?」
答えを待ちきれないように、省吾が不安に上ずった声ですぐさま訊き返えしてきた。
「俺たちの歌を、ちゃんと聴いてくれって。俺は、このワンマンを今までで最高のものにしたいと思ってる。そのライヴを聴いた上で、岩元がどう考えるか。それから、この先の事を決めようと思う」
「えっ、どういうこと? え? えっ。待って、待って、それって……、デビューの可能性もあるっていう事?」
徐々に表情を明るくしながら問う省吾に頷いた。
「やったーー!! あきらっ、デビューっ!! デビューだよっ!」
ドラムの傍で落ち着き払っている瞭のそばに、省吾が駆け寄り、ハイハットをバシバシ叩きながら喜びを露にしている。
「落ち着けよ」
澄ましていた瞭も、嬉しそうに顔を緩めている。
今までどんなことがあっても揺るがずそばにいてくれた仲間の、本当の笑顔を見た気がした。
「そうなるために。デビューするために。二人とも、よろしく頼むっ」
瞭と省吾へ、固い決心を抱えて笑いかけると、二人はもちろんだと言うように大きく頷いた。
気合の入った最終練習を終えると、スタジオの廊下では圭が長椅子に腰掛け、俺のことを待っていた。公園で、頼の傍にいてやって欲しいと頼んでから、久しぶりの対面だった。
圭は、あのペットのような人懐っこい笑顔を浮かべて見せ、ただ確信に満ちたような、スッキリしたような表情をしていた。
頼のことについては、何も話してこない。俺からも訊いたりしない。
きっとアイツは来ると、俺たちは信じているから。
俺たちを弟のようにして可愛がってくれていた頼は、必ずライブに来ると信じている。
「圭。明日のライヴ。耳の穴掃除して、ちゃんと鼓膜に焼き付けとけよ」
「はい」
「明日のライヴが、インディーズでやる最後のライヴになるかもしれないからな。いや、必ずそうするから」
圭は、満面の笑顔で大きく頷く。
頼のために絶対そうするんだ。
明日のライヴに、未来を馳せる。
二時間ぶっ続けのスタジオリハーサル。喉の調子を見ながら、楽器のご機嫌もうかがっていく。
僅かな調整を間に挟み、スタジオリハを終えた。
汗を拭い、喉を潤し、スタジオ内に置かれている椅子に腰かける。
「いい汗~」
省吾が喉を鳴らして水を飲んだ後、タバコに火をつける。瞭も止めどなく浮き出てくる汗を拭いながら煙草を取り出した。
そんな二人に改まって、話を振った。
「ちょっといいか」
タバコの煙を盛大に吐き出した省吾が、「今から曲変えるとか勘弁だよぉ」と唇を尖らせる。長年俺の我儘に付き合ってきているだけに、先読みする癖がある。
「いや。今日は違うんだ。変更がなくて、悪いな」
皮肉って笑うと、じゃあなんだよ。とでも言うように、訝しい顔つきをする。
そんな省吾と、黙ったまま煙草をふかす瞭に向けて、椅子から立ち上がり頭を下げた。
「今まで、無理言ってきてゴメン」
突然頭なんか下げるものだから、らしくない行動に省吾が慌てだした。
「えっ、ちょっと、なんだよ。頭なんか下げんなよっ」
頭を上げると、動揺した省吾が吸っていた煙草を空の缶にグリグリと擦り付け捨てた。
「色々考えた結果、吹っ切れたんだ」
「……吹っ切れたって」
省吾が不安な顔をしている。そんな顔をさせるくらい、今まで心配ばかりかけてきたんだな、と改めて感じていた。けど、それも今日までだ。
「この前。岩元のおっさんに言っておいたんだ」
「なっ、なんて?」
答えを待ちきれないように、省吾が不安に上ずった声ですぐさま訊き返えしてきた。
「俺たちの歌を、ちゃんと聴いてくれって。俺は、このワンマンを今までで最高のものにしたいと思ってる。そのライヴを聴いた上で、岩元がどう考えるか。それから、この先の事を決めようと思う」
「えっ、どういうこと? え? えっ。待って、待って、それって……、デビューの可能性もあるっていう事?」
徐々に表情を明るくしながら問う省吾に頷いた。
「やったーー!! あきらっ、デビューっ!! デビューだよっ!」
ドラムの傍で落ち着き払っている瞭のそばに、省吾が駆け寄り、ハイハットをバシバシ叩きながら喜びを露にしている。
「落ち着けよ」
澄ましていた瞭も、嬉しそうに顔を緩めている。
今までどんなことがあっても揺るがずそばにいてくれた仲間の、本当の笑顔を見た気がした。
「そうなるために。デビューするために。二人とも、よろしく頼むっ」
瞭と省吾へ、固い決心を抱えて笑いかけると、二人はもちろんだと言うように大きく頷いた。
気合の入った最終練習を終えると、スタジオの廊下では圭が長椅子に腰掛け、俺のことを待っていた。公園で、頼の傍にいてやって欲しいと頼んでから、久しぶりの対面だった。
圭は、あのペットのような人懐っこい笑顔を浮かべて見せ、ただ確信に満ちたような、スッキリしたような表情をしていた。
頼のことについては、何も話してこない。俺からも訊いたりしない。
きっとアイツは来ると、俺たちは信じているから。
俺たちを弟のようにして可愛がってくれていた頼は、必ずライブに来ると信じている。
「圭。明日のライヴ。耳の穴掃除して、ちゃんと鼓膜に焼き付けとけよ」
「はい」
「明日のライヴが、インディーズでやる最後のライヴになるかもしれないからな。いや、必ずそうするから」
圭は、満面の笑顔で大きく頷く。
頼のために絶対そうするんだ。
明日のライヴに、未来を馳せる。