邂逅者 8
文字数 3,899文字
時間は少し遡る。
タカトが出て行った後暫くの間、ノンノとベータは大人しく二人で人形遊びをしていた。何があったのかは気になるが、此処は魔王の居城であり二人は何の力もないただの人間でしかない。此処で出て行ったとしても邪魔になることはあっても役に立つとは思えない。
そうでなくても、ノンノもベータもタカトや他の住人に迷惑をかけるようなことはしたくないという思いは一緒であったから、そこから積極的に動こうという気持ちはなかったし何もなければ本当にそんなことはしなかっただろう。特にノンノはタカトを信頼している。彼が何でもないというなら何でもないのだろうし、此処にいろというのならいつまでもいるつもりだった。
……そう。過去形である。
現在ノンノとベータは一緒に廊下を歩いていた。
別にタカトや他の者達の様子を見に行っている、という訳ではない。
ただ、他の住人が魔族でありノンノたちが人間であるという事で一つの問題が生じただけの話である。
本来なら長く青の一族に使用されてきたこの城の中にソレがあることそのものが七不思議と言えなくもないが、先代の魔王の伴侶が人間であったから態々作ったのかもしれないし、その前から実はあったのかもしれない。真相は良く分からないが、人間である彼女達が住むにあたって非常に助かってはいる。
ただし、こういう時には困りものだ。
広い城の中でそれは各階に一箇所しかない。
多いと言うべきか、案外ケチだと言うのかは判断が分かれるが、この時ばかりは二人を困らせた。二人がいる部屋から、ソレの場所は遠かったので。
我慢は良くない。しかし、部屋から出るなとも言われている。
しばし悩んだ二人は、一緒に急いでソコに行き、できるだけ早く用を済ませて部屋に戻ってくれば事情が事情だけに怒られはしないだろうと判断した。
それに、考えるうちに限界が近くなっていたのである。
部屋を飛び出して小走りでソコに駆け込んだ二人は目的を果たし、一転してスッキリした顔で廊下を早足で部屋まで戻るべく進んでいた。それでも行きより少し遅いのは、気持ちに余裕が出てきたためだろう。
「一体何が起こっているんでしょうね?」
この城のどこかで何かが起こっている。それだけは間違いないが二人には城の様子は普段と何も変わっていないように見える。
「わかんないの。でもきっとだいじょうぶなのよ」
周囲を警戒しながら不安そうに言うベータに、にこにことノンノが笑って答える。廊下をぱたぱたと急いで部屋へと戻る二人の手はしっかりと繋がれていた。
「で、でもいきなりどなたかに襲われたら……」
湖の中にあるこの城にやって来れるような者は、明らかに人間ではない。魔族である。
それが吸血鬼ではないにしろ、魔族は無力な二人などと比べれば想像を絶する力を振りかざす存在だ。その気になれば少女二人など、腕一本で体を捻じ切ってしまえるだろう。そう考えるとベータは怖くて堪らない。魔王の城なのだから万が一などまず無いと思っても、不安だけは中々消せないものだ。
心なしか顔を蒼くしているベータの手をきゅっと握り返して、ノンノは彼女に変わらず笑いかける。
「だいじょうぶなのよ」
大きな目が真っ直ぐにベータをみつめている。
「まきちゃんは、ノンノがまもってあげるのよ」
「え……」
それを、ベータはノンノに元気づけられたのだと解釈した。それと同時に、自分のちいさな弟妹達と同じくらいの年齢のノンノにこんな事を言われるなんて情けないとも思う。
齢で言えばベータの方がずっと上なのだ。何かあったときにはむしろベータがノンノを守らなくてはいけない。
そう思ったら、ようやく冷静になってきてベータはノンノと同じようににこっと笑い返した。元々大家族の一番上の姉なのだ。弱いものを庇護する気持ちは人一倍強い。
そのためならどんな恐ろしい状況だろうと笑うくらいは出来るほどに。
「すいません。私がノンノさんを守ります。だから大丈夫ですよ」
「えっとね、まきちゃん、ちょっとちがうのよ。だってノンノは……」
何かを言いかけたノンノの足が止まる。それと同時にベータも。
二人の耳には自分達の声以外の、聞きなれた男の声が飛び込んできていた。それと同時に聞き覚えのない女の声も。それは、二人の直ぐ目の前の扉の向こうから聞こえてくる。
「この声、タカトさん?」
「たかちゃんなのよ……」
顔を見合わせる少女二人。
声の様子からして、それ程危険な様子もなかった。
どちらからともなく扉の方に近寄って、ゆっくりとそれを開けてしまう。
音が出ないように(何処もかしこも見事なこの城の中で開閉時に音がするような扉など存在していなかったが)そっと開けてしまうのは、何故か悪いことをしているようなバツの悪さがあったからかもしれない。
薄く開いた扉から二人はそっと中を覗き込む。その瞬間に息を呑んだ。
「お前を貰う」
二人が見たこともないような顔をして赤の強い瞳を輝かせながら、見知らぬ長い黒髪の少女の服を引き裂くタカトがそこにいたのだから。二人にとっては信じられない光景であった。
彼は、この城の中で最も信用していた相手。
彼の挙動から少し遅れて、服を裂かれた方の少女が怯えた顔をして大きな悲鳴を上げる。
「い、いやぁぁぁぁっ!!」
それから少し遅れて、ノンノの方も悲鳴のような叫びを上げた。
「……めぇぇぇぇなのぉぉぉっっ!!」
突然の少女の叫びに驚いたようにノンノを見下ろしたベータは、彼女の体から紫色をした光が上がるのを見て小さな悲鳴を上げた。
その光は一瞬で膨れ上がり、部屋の中を満たす。
先に悲鳴をあげた少女の体を避ける様に暴れまわった光の奔流は、タカトの体だけをボロボロにしていった。彼が防御する間もなく暴力的な力が抵抗を奪い、その身を打ち据えていく。やがてタカトが肩膝をつくに至ってようやく光は収まった。
呆然とする、長い黒髪の少女とベータ。
「……あぁ。ノンノ、か」
己を突然襲った圧倒的で一方的な暴力によって冷静になった後、部屋の入り口付近にいた二人を見つけたタカトは、苦笑とも諦めともつかない曖昧な微笑みを浮かべて呟いた。
その目はノンノのよく知っている綺麗な紫の瞳に戻っている。
そんなタカトの姿に、ノンノの大きな目が潤んだ。
「たかちゃんっ!」
泣きそうな顔をして彼の元に駆け寄る小さな少女に、腕を動かすのも億劫なほどに全身に痛みが走っているタカトであったがそんな事は微塵も感じさせないよういつも通りの顔と仕草で彼女を出迎えた。ノンノがぎゅっと抱きついてきて更に激しい痛みに襲われるが、それも我慢する。
……これほど酷い状態になったのは何百年ぶりだろうと、思いながら。
ノンノの後からベータも部屋の中に入ってくる。ぼろぼろなのはタカトだけで、見知らぬ少女を含めて部屋の調度品一つに至っても、何も傷ついていないのが不思議であった。
耐え切れなくなったのかぽろぽろ泣きながらノンノがしゃっくりを上げて必死にしがみついて、タカトに謝る。
「ごめんなさいっ……ノンノ、ノンノは……っ」
「いや、ノンノが悪いわけじゃないさ。こういう事が出来るようにしたのは俺だしな。それに……」
腕が痛むのを堪えながら優しくノンノの頭を撫でるタカト。彼女を宥めながら一度言葉を切って、揺れるノンノのリボンから視線を外すと少し離れた所で呆然と立ち尽くすミーシアと名乗った少女を見る。
彼自身が裂いた胴着の上を両の手でかき抱いている姿が痛々しい。
その姿に胸が痛むと同時に、やはり心の中の何処かがまだちりちりと燻っているのを感じる。それでもかろうじて堪えられるのは己が身にはっきりと爪を立てている痛みもあるが、何より腕の中の小さな少女の存在があるからなのだろう。
「正直、助かったと言うべきだろうな」
ノンノの魔法がなければ、あの時の自分は止められなかっただろう。
生半可な力では公爵たる自分に届かない。これほどの深傷を受けてようやく止まれた。
あれは正確にはタカト本人の魔法。
ノンノに何かあった時の為に、彼女が強い拒絶や恐怖、怒りや畏怖を感じて叫んだ時にその対象のみを、直ぐに動けない程度まで攻撃するような魔法をかけているのだ。本当は対象そのものをさくっと滅ぼせるのが一番心配がなくて手っ取り早いのかもしれないが、この心優しい少女の目の前で殺しなどすればトラウマになってしまうだろうからとそれは止めておいたのは正解だった。
でなければ此処で死んでいたかもしれない。
彼本人の魔法であるが、これ以上ないほど強力に施してあるのだ。仮に魔王に対し発動したって同じ効果は得られるだろう設計はしていた。
実際これだけボロボロになっているのだ……効果は完璧である。
よもやその一番最初の対象が己になるとは思っていなかったが。
「あの、タカトさん?」
「マキーナちゃんか。変なトコ見せちまってすまんね」
恐る恐る声をかけたベータは、返ってきたいつも通りの口調とタカトの柔らかい表情にほっと息をついた。自分の知っているタカトだ、と思って安心する。
「……ま、き?」
だが、意外な方からも反応があった。
さっきタカトに襲われかけていた少女が、どこか虚ろで感情を無くしたようであった彼女の青い瞳が光を取り戻してベータを見ている。
「ベータ、マキーナ…さん?」
「は、はい……」
何が何だかよく分からないまま、それでも名前を呼ばれたことでベータは反射的に返事をしていた。
ベータの返事に、ミーシアは大きな息を一つ吐き出すとその場にぺたっと座り込んでしまった。
タカトが出て行った後暫くの間、ノンノとベータは大人しく二人で人形遊びをしていた。何があったのかは気になるが、此処は魔王の居城であり二人は何の力もないただの人間でしかない。此処で出て行ったとしても邪魔になることはあっても役に立つとは思えない。
そうでなくても、ノンノもベータもタカトや他の住人に迷惑をかけるようなことはしたくないという思いは一緒であったから、そこから積極的に動こうという気持ちはなかったし何もなければ本当にそんなことはしなかっただろう。特にノンノはタカトを信頼している。彼が何でもないというなら何でもないのだろうし、此処にいろというのならいつまでもいるつもりだった。
……そう。過去形である。
現在ノンノとベータは一緒に廊下を歩いていた。
別にタカトや他の者達の様子を見に行っている、という訳ではない。
ただ、他の住人が魔族でありノンノたちが人間であるという事で一つの問題が生じただけの話である。
本来なら長く青の一族に使用されてきたこの城の中にソレがあることそのものが七不思議と言えなくもないが、先代の魔王の伴侶が人間であったから態々作ったのかもしれないし、その前から実はあったのかもしれない。真相は良く分からないが、人間である彼女達が住むにあたって非常に助かってはいる。
ただし、こういう時には困りものだ。
広い城の中でそれは各階に一箇所しかない。
多いと言うべきか、案外ケチだと言うのかは判断が分かれるが、この時ばかりは二人を困らせた。二人がいる部屋から、ソレの場所は遠かったので。
我慢は良くない。しかし、部屋から出るなとも言われている。
しばし悩んだ二人は、一緒に急いでソコに行き、できるだけ早く用を済ませて部屋に戻ってくれば事情が事情だけに怒られはしないだろうと判断した。
それに、考えるうちに限界が近くなっていたのである。
部屋を飛び出して小走りでソコに駆け込んだ二人は目的を果たし、一転してスッキリした顔で廊下を早足で部屋まで戻るべく進んでいた。それでも行きより少し遅いのは、気持ちに余裕が出てきたためだろう。
「一体何が起こっているんでしょうね?」
この城のどこかで何かが起こっている。それだけは間違いないが二人には城の様子は普段と何も変わっていないように見える。
「わかんないの。でもきっとだいじょうぶなのよ」
周囲を警戒しながら不安そうに言うベータに、にこにことノンノが笑って答える。廊下をぱたぱたと急いで部屋へと戻る二人の手はしっかりと繋がれていた。
「で、でもいきなりどなたかに襲われたら……」
湖の中にあるこの城にやって来れるような者は、明らかに人間ではない。魔族である。
それが吸血鬼ではないにしろ、魔族は無力な二人などと比べれば想像を絶する力を振りかざす存在だ。その気になれば少女二人など、腕一本で体を捻じ切ってしまえるだろう。そう考えるとベータは怖くて堪らない。魔王の城なのだから万が一などまず無いと思っても、不安だけは中々消せないものだ。
心なしか顔を蒼くしているベータの手をきゅっと握り返して、ノンノは彼女に変わらず笑いかける。
「だいじょうぶなのよ」
大きな目が真っ直ぐにベータをみつめている。
「まきちゃんは、ノンノがまもってあげるのよ」
「え……」
それを、ベータはノンノに元気づけられたのだと解釈した。それと同時に、自分のちいさな弟妹達と同じくらいの年齢のノンノにこんな事を言われるなんて情けないとも思う。
齢で言えばベータの方がずっと上なのだ。何かあったときにはむしろベータがノンノを守らなくてはいけない。
そう思ったら、ようやく冷静になってきてベータはノンノと同じようににこっと笑い返した。元々大家族の一番上の姉なのだ。弱いものを庇護する気持ちは人一倍強い。
そのためならどんな恐ろしい状況だろうと笑うくらいは出来るほどに。
「すいません。私がノンノさんを守ります。だから大丈夫ですよ」
「えっとね、まきちゃん、ちょっとちがうのよ。だってノンノは……」
何かを言いかけたノンノの足が止まる。それと同時にベータも。
二人の耳には自分達の声以外の、聞きなれた男の声が飛び込んできていた。それと同時に聞き覚えのない女の声も。それは、二人の直ぐ目の前の扉の向こうから聞こえてくる。
「この声、タカトさん?」
「たかちゃんなのよ……」
顔を見合わせる少女二人。
声の様子からして、それ程危険な様子もなかった。
どちらからともなく扉の方に近寄って、ゆっくりとそれを開けてしまう。
音が出ないように(何処もかしこも見事なこの城の中で開閉時に音がするような扉など存在していなかったが)そっと開けてしまうのは、何故か悪いことをしているようなバツの悪さがあったからかもしれない。
薄く開いた扉から二人はそっと中を覗き込む。その瞬間に息を呑んだ。
「お前を貰う」
二人が見たこともないような顔をして赤の強い瞳を輝かせながら、見知らぬ長い黒髪の少女の服を引き裂くタカトがそこにいたのだから。二人にとっては信じられない光景であった。
彼は、この城の中で最も信用していた相手。
彼の挙動から少し遅れて、服を裂かれた方の少女が怯えた顔をして大きな悲鳴を上げる。
「い、いやぁぁぁぁっ!!」
それから少し遅れて、ノンノの方も悲鳴のような叫びを上げた。
「……めぇぇぇぇなのぉぉぉっっ!!」
突然の少女の叫びに驚いたようにノンノを見下ろしたベータは、彼女の体から紫色をした光が上がるのを見て小さな悲鳴を上げた。
その光は一瞬で膨れ上がり、部屋の中を満たす。
先に悲鳴をあげた少女の体を避ける様に暴れまわった光の奔流は、タカトの体だけをボロボロにしていった。彼が防御する間もなく暴力的な力が抵抗を奪い、その身を打ち据えていく。やがてタカトが肩膝をつくに至ってようやく光は収まった。
呆然とする、長い黒髪の少女とベータ。
「……あぁ。ノンノ、か」
己を突然襲った圧倒的で一方的な暴力によって冷静になった後、部屋の入り口付近にいた二人を見つけたタカトは、苦笑とも諦めともつかない曖昧な微笑みを浮かべて呟いた。
その目はノンノのよく知っている綺麗な紫の瞳に戻っている。
そんなタカトの姿に、ノンノの大きな目が潤んだ。
「たかちゃんっ!」
泣きそうな顔をして彼の元に駆け寄る小さな少女に、腕を動かすのも億劫なほどに全身に痛みが走っているタカトであったがそんな事は微塵も感じさせないよういつも通りの顔と仕草で彼女を出迎えた。ノンノがぎゅっと抱きついてきて更に激しい痛みに襲われるが、それも我慢する。
……これほど酷い状態になったのは何百年ぶりだろうと、思いながら。
ノンノの後からベータも部屋の中に入ってくる。ぼろぼろなのはタカトだけで、見知らぬ少女を含めて部屋の調度品一つに至っても、何も傷ついていないのが不思議であった。
耐え切れなくなったのかぽろぽろ泣きながらノンノがしゃっくりを上げて必死にしがみついて、タカトに謝る。
「ごめんなさいっ……ノンノ、ノンノは……っ」
「いや、ノンノが悪いわけじゃないさ。こういう事が出来るようにしたのは俺だしな。それに……」
腕が痛むのを堪えながら優しくノンノの頭を撫でるタカト。彼女を宥めながら一度言葉を切って、揺れるノンノのリボンから視線を外すと少し離れた所で呆然と立ち尽くすミーシアと名乗った少女を見る。
彼自身が裂いた胴着の上を両の手でかき抱いている姿が痛々しい。
その姿に胸が痛むと同時に、やはり心の中の何処かがまだちりちりと燻っているのを感じる。それでもかろうじて堪えられるのは己が身にはっきりと爪を立てている痛みもあるが、何より腕の中の小さな少女の存在があるからなのだろう。
「正直、助かったと言うべきだろうな」
ノンノの魔法がなければ、あの時の自分は止められなかっただろう。
生半可な力では公爵たる自分に届かない。これほどの深傷を受けてようやく止まれた。
あれは正確にはタカト本人の魔法。
ノンノに何かあった時の為に、彼女が強い拒絶や恐怖、怒りや畏怖を感じて叫んだ時にその対象のみを、直ぐに動けない程度まで攻撃するような魔法をかけているのだ。本当は対象そのものをさくっと滅ぼせるのが一番心配がなくて手っ取り早いのかもしれないが、この心優しい少女の目の前で殺しなどすればトラウマになってしまうだろうからとそれは止めておいたのは正解だった。
でなければ此処で死んでいたかもしれない。
彼本人の魔法であるが、これ以上ないほど強力に施してあるのだ。仮に魔王に対し発動したって同じ効果は得られるだろう設計はしていた。
実際これだけボロボロになっているのだ……効果は完璧である。
よもやその一番最初の対象が己になるとは思っていなかったが。
「あの、タカトさん?」
「マキーナちゃんか。変なトコ見せちまってすまんね」
恐る恐る声をかけたベータは、返ってきたいつも通りの口調とタカトの柔らかい表情にほっと息をついた。自分の知っているタカトだ、と思って安心する。
「……ま、き?」
だが、意外な方からも反応があった。
さっきタカトに襲われかけていた少女が、どこか虚ろで感情を無くしたようであった彼女の青い瞳が光を取り戻してベータを見ている。
「ベータ、マキーナ…さん?」
「は、はい……」
何が何だかよく分からないまま、それでも名前を呼ばれたことでベータは反射的に返事をしていた。
ベータの返事に、ミーシアは大きな息を一つ吐き出すとその場にぺたっと座り込んでしまった。