邂逅者 7
文字数 3,994文字
タカトがいなくなった後の部屋で、ベータとノンノはしばらくそれまでのように遊んでいたけれど、やはり集中できずにその手もいつしか止まってしまう。
彼は何も言わなかったが、その雰囲気から今までになかったような何かが起こったのは二人にだって分かった。
この城は魔王の住まう城。
他の二人だって、普通の魔族に比べれば強大な力を持つ存在。
そんな三人がいる城なのだから万が一の事など起こる筈がない。この城が何かに脅かされるなど想像もつかない。人間である二人にとって、それだけこの場所は安全な場所であったし事実その認識に間違いはない。
だからだろう……この時、残された二人がそんな行動に出たのは。
大量のマクラに覆い潰されそうになるという、悪夢のような出来事は視界が全てマクラで塞がれた直後に夢のように消え失せた。さっきまでの異臭ごと、大量のマクラが消え去った後にはそれまで居た場所とは全く違う光景が広がっていた。
何処、というのはミオナにはわからない。
ただ部屋の持つ雰囲気から、その場所が青の城の中の何処かだという事は解る。高い天井や、さっきまでの部屋と同じ壁紙、其処彼処に置かれた見るからに高価と分かる見事な調度品の数々が、青の城の中であると同時にそれまでいた部屋とは違う場所であると主張していた。何処をとってもさっきとは違う……其処に居る者も。
周りを窺った彼女の視界に見覚えのない男の姿が入る。
イワツでも、イワツと口喧嘩をしていた長い黒髪の吸血貴族でもない。
茶色の髪に、紫色の瞳をもったすらりとした長身の美丈夫、といった男だった。黒を基調にした服も彼に良く似合っている。目が合うと、男は困ったような顔をして前髪をかき上げた。紫の瞳を揺らし口元が少し上がり、まるで笑っているような顔をして彼女を見る。
「あの……貴方は?」
その目の色から吸血鬼でない、ということで警戒心を少し緩ませて、それでもデーモンキラーからは手を外すことなくミオナは問いかける。
「俺? 俺は此処の住人の一人だけどさ」
「此処の?」
ミオナの問い掛けに男は淀みなく答えたけれど、此処は青の城。現魔王の居城である。
その答えに少女の透き通った青の瞳が眇められるのを、タカトは何処か恍惚とした気分で眺めていた。
目の前にいる長い髪のこの少女が、己の目の前に居てこうやって話をして、尚且つ自分の話した事に対して反応を返してくること……その全てが彼の心を揺さぶっていた。彼女の一挙一動に揺らされる自分の心の反応すら新鮮で、それは心地よく感じる。
そんなことは初めてかもしれない。
いや、コレとは少し違うものの似たような気分なら昔感じた記憶があった。そう、あれは彼が吸血鬼としての本能を捨てるに至った原因の。
「青の城に、人が……?」
驚いたように言う彼女。
そう、シーナ=ディリアと向き合った時に感じていたものに良く似ているのだ。
はるか過去に生きた類い稀なる聖女。彼の瞳に青を与えた者。
「なぁ。お前さん、名前は?」
「私、ミーシア=ミオナと申します。そういう貴方は?」
「俺はタカト=グッチーセ」
違うのは、あの時には感じなかった衝動があること。
それはむず痒く暖かく乾いた衝動。タカト自身は忘れて久しい、吸血衝動に良く似ているが全く異なるもの。遥か昔シーナ=ディリアと出会った時には完全な吸血鬼でありながら吸血衝動すら感じなかったというのに、ミーシア=ミオナと名乗る少女の存在は一挙一動全てが刺激してくるのだ。
愚かで抗うことの難しい情動。
欲望という名を根底に持つ、希求。
タカトの紫の瞳が少しだけ赤みを増した。
「タカトさん、ですか。此方にお住みでしたら御存知かもしれませんね」
ふっと口元に手をやって考え込んだミーシアが、顔を上げて言う。
まだ大人になりきらない少女の姿が、その存在の放つ匂いが時間が経つほどにタカトを刺激して、ゆっくりと彼の理性を狂わせていく。己の内側が何故こんなに刺激されるのかすら考えられない。ついさっきまでイワツがいたことも、イワツによって今この状況が作られたことも、他にもう一人人間が居たこともタカトにはもはやどうでもいい。
別の部屋に居るはずの、ノンノとベータの存在すら既に彼の思考からは消え去っていた。
己が身で味わったことのないタカトが知るわけではないが、それは『死の姉妹』のもたらす効果にも似ている。
ミーシアの言葉に惹かれるようにふらり、と彼女の方に体が歩み寄ったことすら気付かないほど、タカトは心を囚われていた。
「何の目的もなくこんな所に来たわけじゃないんだろ? 俺に分かる事なら教えてやってもいいけど」
「ありがとうございます」
言い訳するかのように告げれば、嬉しそうに少女がにっこりと笑う。
その姿を見てタカトの中の何かがぷつり、と音を立てて切れた。
歩み寄って長い指を彼女の頬に伸ばす。
「ただし、タダってわけにはいかないな」
さらさらと長い黒髪と、柔らかな頬。
二つの異なった感触が伝わってくると同時に、甘い匂いが更に強烈に伝わってくる。
「あ、あの?」
見知らぬ男に突然頬を触られても、身を引くどころかきょとんとして見上げてくる人間の女。その青の目が語るのは単純で純粋な驚きだけで、拒絶や恐怖、怯えは微塵も含まれない。
成る程、こういうのを無垢というのだとタカトは口元をかすかに歪めて思う。
見た限りでは思春期に十分到達していると思われるのに、返してくる反応はノンノのそれと同じ。最近この城の住人になったベータと同じくらいの年齢だろうに、こういうことに関してはあの青髪の少女の方が余程普通の反応を返してくる。
ベータはあれでも昔から苦労をしてきたようなので、世慣れているのだろう。ノンノにでも寄られない限りこんな無邪気な反応はまずしない筈だ。
軽く頬を撫でてやれば、益々不思議そうに見上げてくる少女。
「私、お金などはほとんど持っていませんけど」
「別に金なんか要求しないさ。そんなもの俺にとっては意味がないからな」
「では……何を」
面白い。
心の奥底で狡猾な獣が首を擡げる。
背徳の甘い味。吸血鬼にとっての、血の味にも似た。
遥か昔に吸血衝動を無くした彼にとって、それは別の衝動に取って変えられる。
いや、もしかしたら吸血鬼が人の血を求めるその根底には常にこの衝動が関わっているのかもしれない。基本的に彼らが美しい異性の血を好むのは、人間が見目の良い恋人を求めるのと同じ理由なのかもしれない。血の味と容姿には何の関連もないのだから。
今や理性の外殻が剥がされたタカトは頬からゆっくりと手を滑らせて、彼女の顎を捉える。
「タカトさん?」
彼の手によって少し上向かされて尚、やはり危機感を抱いてない姿にもはや話をしても無意味だと思った。
だからそのまま行動に移す。
「……っ!?」
近寄って、軽く触れ合った唇にミーシアの目が大きく見開かれる。
された事のない接触に言葉も出ないまま、焦点が合わないほど間近に迫っている男の顔を凝視した。赤みの増した紫の瞳が滲むように歪んで見える。
タカトは予想通りのミーシアの反応に気分を良くして口の端を上げると、もう一度唇を寄せた。丁度何かを言いかけて軽く開かれていたミーシアの唇に触れ合うと、今度はより深く繋がる。
「~~~~っ!!」
さすがに今度は恐慌をきたしたのだろう。
抵抗しようと激しく身を捩らせようとした少女の動きは、それより一瞬早く腰に回されていた男の腕によってその殆どを封じられてしまう。自由な両腕で相手の胸板を叩こうと、せめて身を引き剥がす為に腕を突っ張らせたりしてみるのだが全く相手は動じない。
それどころか蹂躙されていく口内に全身の力が徐々に抜けていく。体験したことのない感触に、感覚がついていかない。
逃げようとするかのようにぎゅっと目を閉じても、与えられる刺激がより敏感に伝わってしまっただけで、まったく意味を成さなかった。
「……~~ぅっ」
飲みきれなかった互いの唾液が伝っていく。
抵抗を示していた彼女の腕が、縋りつくようにタカトの服を掴んだ。
真っ赤な顔をしているミーシアを、その一部始終を見ていた男はそこに至ってようやく軽く満たされると、最後に軽く彼女の唇を舐めて離れていった。
ただし離れたのは顔だけで、体の拘束は微塵も緩まっていない。
「…………はぁ……はぁ……」
初めての事に息をすることすら忘れていたミーシアが貪るように荒く呼吸をする間に、彼女の顎を拘束していた腕が離れて赤い袴の結び目をあっさり解く。
さすがに直ぐに落ちはしないが、腰の拘束が緩まったのに気付いた彼女は力の入らない手で反射的に袴を掴む。
青の瞳が、驚愕と僅かな怯えを混ぜてタカトを見上げた。
「な、何を……っ!?」
「タダってわけにはいかないと言っただろう?」
囁き声が、耳朶を打つ。
低い男の声が酷く間近に感じられて、少し落ち着き始めたミーシアの頬の赤みが再び戻った。
彼女の視界で、紫の綺麗な瞳は欲情を隠そうともせずに獣のように光っている。肉食獣の牙に捕まった草食獣のような、そんな気分だった。逃げなければいけないと心の奥で警鐘が響くのに、体はまったく応えてはくれないのだ。
「お前さんを貰う」
言葉と同時に、体から引き剥がされるのは着慣れた布地の感触で。
同時に身を襲った空気の冷たさに、はっと我に返ったミーシアは悲鳴を上げる。
二人は、部屋の扉が何者かによって開かれた事にも気付いていなかった。ミーシアはそれどころではなく、何時もなら周りの状況に敏感なタカトも目の前の獲物のことしか頭になかったのだ。
「い、いやぁぁぁぁっ!!」
「…めぇぇぇぇなのぉぉぉっっ!!」
ミーシアの悲鳴から少しずれて上がった叫びと同時に、部屋に膨大なエネルギーの奔流が暴れまわった。
彼は何も言わなかったが、その雰囲気から今までになかったような何かが起こったのは二人にだって分かった。
この城は魔王の住まう城。
他の二人だって、普通の魔族に比べれば強大な力を持つ存在。
そんな三人がいる城なのだから万が一の事など起こる筈がない。この城が何かに脅かされるなど想像もつかない。人間である二人にとって、それだけこの場所は安全な場所であったし事実その認識に間違いはない。
だからだろう……この時、残された二人がそんな行動に出たのは。
大量のマクラに覆い潰されそうになるという、悪夢のような出来事は視界が全てマクラで塞がれた直後に夢のように消え失せた。さっきまでの異臭ごと、大量のマクラが消え去った後にはそれまで居た場所とは全く違う光景が広がっていた。
何処、というのはミオナにはわからない。
ただ部屋の持つ雰囲気から、その場所が青の城の中の何処かだという事は解る。高い天井や、さっきまでの部屋と同じ壁紙、其処彼処に置かれた見るからに高価と分かる見事な調度品の数々が、青の城の中であると同時にそれまでいた部屋とは違う場所であると主張していた。何処をとってもさっきとは違う……其処に居る者も。
周りを窺った彼女の視界に見覚えのない男の姿が入る。
イワツでも、イワツと口喧嘩をしていた長い黒髪の吸血貴族でもない。
茶色の髪に、紫色の瞳をもったすらりとした長身の美丈夫、といった男だった。黒を基調にした服も彼に良く似合っている。目が合うと、男は困ったような顔をして前髪をかき上げた。紫の瞳を揺らし口元が少し上がり、まるで笑っているような顔をして彼女を見る。
「あの……貴方は?」
その目の色から吸血鬼でない、ということで警戒心を少し緩ませて、それでもデーモンキラーからは手を外すことなくミオナは問いかける。
「俺? 俺は此処の住人の一人だけどさ」
「此処の?」
ミオナの問い掛けに男は淀みなく答えたけれど、此処は青の城。現魔王の居城である。
その答えに少女の透き通った青の瞳が眇められるのを、タカトは何処か恍惚とした気分で眺めていた。
目の前にいる長い髪のこの少女が、己の目の前に居てこうやって話をして、尚且つ自分の話した事に対して反応を返してくること……その全てが彼の心を揺さぶっていた。彼女の一挙一動に揺らされる自分の心の反応すら新鮮で、それは心地よく感じる。
そんなことは初めてかもしれない。
いや、コレとは少し違うものの似たような気分なら昔感じた記憶があった。そう、あれは彼が吸血鬼としての本能を捨てるに至った原因の。
「青の城に、人が……?」
驚いたように言う彼女。
そう、シーナ=ディリアと向き合った時に感じていたものに良く似ているのだ。
はるか過去に生きた類い稀なる聖女。彼の瞳に青を与えた者。
「なぁ。お前さん、名前は?」
「私、ミーシア=ミオナと申します。そういう貴方は?」
「俺はタカト=グッチーセ」
違うのは、あの時には感じなかった衝動があること。
それはむず痒く暖かく乾いた衝動。タカト自身は忘れて久しい、吸血衝動に良く似ているが全く異なるもの。遥か昔シーナ=ディリアと出会った時には完全な吸血鬼でありながら吸血衝動すら感じなかったというのに、ミーシア=ミオナと名乗る少女の存在は一挙一動全てが刺激してくるのだ。
愚かで抗うことの難しい情動。
欲望という名を根底に持つ、希求。
タカトの紫の瞳が少しだけ赤みを増した。
「タカトさん、ですか。此方にお住みでしたら御存知かもしれませんね」
ふっと口元に手をやって考え込んだミーシアが、顔を上げて言う。
まだ大人になりきらない少女の姿が、その存在の放つ匂いが時間が経つほどにタカトを刺激して、ゆっくりと彼の理性を狂わせていく。己の内側が何故こんなに刺激されるのかすら考えられない。ついさっきまでイワツがいたことも、イワツによって今この状況が作られたことも、他にもう一人人間が居たこともタカトにはもはやどうでもいい。
別の部屋に居るはずの、ノンノとベータの存在すら既に彼の思考からは消え去っていた。
己が身で味わったことのないタカトが知るわけではないが、それは『死の姉妹』のもたらす効果にも似ている。
ミーシアの言葉に惹かれるようにふらり、と彼女の方に体が歩み寄ったことすら気付かないほど、タカトは心を囚われていた。
「何の目的もなくこんな所に来たわけじゃないんだろ? 俺に分かる事なら教えてやってもいいけど」
「ありがとうございます」
言い訳するかのように告げれば、嬉しそうに少女がにっこりと笑う。
その姿を見てタカトの中の何かがぷつり、と音を立てて切れた。
歩み寄って長い指を彼女の頬に伸ばす。
「ただし、タダってわけにはいかないな」
さらさらと長い黒髪と、柔らかな頬。
二つの異なった感触が伝わってくると同時に、甘い匂いが更に強烈に伝わってくる。
「あ、あの?」
見知らぬ男に突然頬を触られても、身を引くどころかきょとんとして見上げてくる人間の女。その青の目が語るのは単純で純粋な驚きだけで、拒絶や恐怖、怯えは微塵も含まれない。
成る程、こういうのを無垢というのだとタカトは口元をかすかに歪めて思う。
見た限りでは思春期に十分到達していると思われるのに、返してくる反応はノンノのそれと同じ。最近この城の住人になったベータと同じくらいの年齢だろうに、こういうことに関してはあの青髪の少女の方が余程普通の反応を返してくる。
ベータはあれでも昔から苦労をしてきたようなので、世慣れているのだろう。ノンノにでも寄られない限りこんな無邪気な反応はまずしない筈だ。
軽く頬を撫でてやれば、益々不思議そうに見上げてくる少女。
「私、お金などはほとんど持っていませんけど」
「別に金なんか要求しないさ。そんなもの俺にとっては意味がないからな」
「では……何を」
面白い。
心の奥底で狡猾な獣が首を擡げる。
背徳の甘い味。吸血鬼にとっての、血の味にも似た。
遥か昔に吸血衝動を無くした彼にとって、それは別の衝動に取って変えられる。
いや、もしかしたら吸血鬼が人の血を求めるその根底には常にこの衝動が関わっているのかもしれない。基本的に彼らが美しい異性の血を好むのは、人間が見目の良い恋人を求めるのと同じ理由なのかもしれない。血の味と容姿には何の関連もないのだから。
今や理性の外殻が剥がされたタカトは頬からゆっくりと手を滑らせて、彼女の顎を捉える。
「タカトさん?」
彼の手によって少し上向かされて尚、やはり危機感を抱いてない姿にもはや話をしても無意味だと思った。
だからそのまま行動に移す。
「……っ!?」
近寄って、軽く触れ合った唇にミーシアの目が大きく見開かれる。
された事のない接触に言葉も出ないまま、焦点が合わないほど間近に迫っている男の顔を凝視した。赤みの増した紫の瞳が滲むように歪んで見える。
タカトは予想通りのミーシアの反応に気分を良くして口の端を上げると、もう一度唇を寄せた。丁度何かを言いかけて軽く開かれていたミーシアの唇に触れ合うと、今度はより深く繋がる。
「~~~~っ!!」
さすがに今度は恐慌をきたしたのだろう。
抵抗しようと激しく身を捩らせようとした少女の動きは、それより一瞬早く腰に回されていた男の腕によってその殆どを封じられてしまう。自由な両腕で相手の胸板を叩こうと、せめて身を引き剥がす為に腕を突っ張らせたりしてみるのだが全く相手は動じない。
それどころか蹂躙されていく口内に全身の力が徐々に抜けていく。体験したことのない感触に、感覚がついていかない。
逃げようとするかのようにぎゅっと目を閉じても、与えられる刺激がより敏感に伝わってしまっただけで、まったく意味を成さなかった。
「……~~ぅっ」
飲みきれなかった互いの唾液が伝っていく。
抵抗を示していた彼女の腕が、縋りつくようにタカトの服を掴んだ。
真っ赤な顔をしているミーシアを、その一部始終を見ていた男はそこに至ってようやく軽く満たされると、最後に軽く彼女の唇を舐めて離れていった。
ただし離れたのは顔だけで、体の拘束は微塵も緩まっていない。
「…………はぁ……はぁ……」
初めての事に息をすることすら忘れていたミーシアが貪るように荒く呼吸をする間に、彼女の顎を拘束していた腕が離れて赤い袴の結び目をあっさり解く。
さすがに直ぐに落ちはしないが、腰の拘束が緩まったのに気付いた彼女は力の入らない手で反射的に袴を掴む。
青の瞳が、驚愕と僅かな怯えを混ぜてタカトを見上げた。
「な、何を……っ!?」
「タダってわけにはいかないと言っただろう?」
囁き声が、耳朶を打つ。
低い男の声が酷く間近に感じられて、少し落ち着き始めたミーシアの頬の赤みが再び戻った。
彼女の視界で、紫の綺麗な瞳は欲情を隠そうともせずに獣のように光っている。肉食獣の牙に捕まった草食獣のような、そんな気分だった。逃げなければいけないと心の奥で警鐘が響くのに、体はまったく応えてはくれないのだ。
「お前さんを貰う」
言葉と同時に、体から引き剥がされるのは着慣れた布地の感触で。
同時に身を襲った空気の冷たさに、はっと我に返ったミーシアは悲鳴を上げる。
二人は、部屋の扉が何者かによって開かれた事にも気付いていなかった。ミーシアはそれどころではなく、何時もなら周りの状況に敏感なタカトも目の前の獲物のことしか頭になかったのだ。
「い、いやぁぁぁぁっ!!」
「…めぇぇぇぇなのぉぉぉっっ!!」
ミーシアの悲鳴から少しずれて上がった叫びと同時に、部屋に膨大なエネルギーの奔流が暴れまわった。