第27話
文字数 747文字
二〇一九年 八月六日
一枚の紙を手にしたまま、松野広信は口端を大きく曲げた。
彼を軸にして弧を描いていた刑事たちは、口々に色とりどりの声を発した。
バカバカしいと鼻で笑う者。
悪趣味な悪戯だと憤慨する者。
冷静に信憑性を疑う者、痴情の祟りだと冷やかす者。
やはり殺人だったのではないかと息巻く小村。
その誰ともピタリと重いが重ならなかった松野だけが、ただ一人無言のままその手紙を見つめた。
『 三鷹署の皆様へ
二週間前に変死した遠山愛は自殺ではありません
彼女は男によって傷付けられ、殺害されました
遠山愛は葛木高也の愛人です
葛木は罪を犯しています 』
その手紙が三鷹署に郵送されて来たのは夕方のことだった。
A4のコピー用紙にパソコンで文面をプリントアウトした手紙は、綺麗に三つ折りに畳まれ、真っ白な封筒に入れられていた。
消印は近くの郵便局だったが、裏に差出人の名前はなかった。
手紙を受け、捜査員たちは早速葛木高也という男の調査に乗り出した。
調べてみると、遠山愛のアパートの近くに備え付けられた防犯カメラに、並んで歩くそれらしい二人の姿が残されていた。
愛の携帯電話本体には、葛木高也の番号も名前も残されていなかったが、携帯会社から彼女の通信履歴を取り寄せると、数回ほど彼と通話した履歴があることも判明した。
葛木高也の妻である夏葉は、愛の高校時代の友人でもある。
その夫と不貞行為をはたらくとなれば、関係には細心の注意を払っていたのだろう。
二人の関係を知る人間は周りには一人としていなかった。
だが、肝心なところに彼の姿はなかった。
愛が死んだ日の死亡推定時刻前後に、葛木高也の姿は誰にも目撃されていなければ、何処の防犯カメラにも映っていなかったのだ。
今のところ彼が愛を殺害したという証拠は何一つなかった。
一枚の紙を手にしたまま、松野広信は口端を大きく曲げた。
彼を軸にして弧を描いていた刑事たちは、口々に色とりどりの声を発した。
バカバカしいと鼻で笑う者。
悪趣味な悪戯だと憤慨する者。
冷静に信憑性を疑う者、痴情の祟りだと冷やかす者。
やはり殺人だったのではないかと息巻く小村。
その誰ともピタリと重いが重ならなかった松野だけが、ただ一人無言のままその手紙を見つめた。
『 三鷹署の皆様へ
二週間前に変死した遠山愛は自殺ではありません
彼女は男によって傷付けられ、殺害されました
遠山愛は葛木高也の愛人です
葛木は罪を犯しています 』
その手紙が三鷹署に郵送されて来たのは夕方のことだった。
A4のコピー用紙にパソコンで文面をプリントアウトした手紙は、綺麗に三つ折りに畳まれ、真っ白な封筒に入れられていた。
消印は近くの郵便局だったが、裏に差出人の名前はなかった。
手紙を受け、捜査員たちは早速葛木高也という男の調査に乗り出した。
調べてみると、遠山愛のアパートの近くに備え付けられた防犯カメラに、並んで歩くそれらしい二人の姿が残されていた。
愛の携帯電話本体には、葛木高也の番号も名前も残されていなかったが、携帯会社から彼女の通信履歴を取り寄せると、数回ほど彼と通話した履歴があることも判明した。
葛木高也の妻である夏葉は、愛の高校時代の友人でもある。
その夫と不貞行為をはたらくとなれば、関係には細心の注意を払っていたのだろう。
二人の関係を知る人間は周りには一人としていなかった。
だが、肝心なところに彼の姿はなかった。
愛が死んだ日の死亡推定時刻前後に、葛木高也の姿は誰にも目撃されていなければ、何処の防犯カメラにも映っていなかったのだ。
今のところ彼が愛を殺害したという証拠は何一つなかった。