第26話

文字数 787文字

駅近くにある古びたスーパーは賑わいを忘れたように閑散としていた。
夕方のタイムセールが既に終ったあとだったからだろう。

 中に入ると、砂井は余所見もせず惣菜コーナーへ向かった。

置き去りの迷子のように寂しく並んだ商品は、どれも半額のシールで飾られていた。
ざっと一通り目を通して、パックに入ったオムライスを手にするとすぐにその場を離れた。

特別それが食べたかったわけではない。
腹が満たされれば何でもよかった。

ついでに見切り品を詰め込んだワゴンから、賞味期限間近のレトルトカレーとカップめんを一つずつ引っ張り出して、そのまま会計を済ませた。


買い物はいつも自分の欲に耳を傾けないように最短で済ませている。
もっと美味いものを食べたい。

いい酒を飲みたい。
有名ブランドの服を着て、洒落た靴を履き、高級車を乗り回したい。

欲なんて言い出せばキリがない。
だから欲が理性を超えるより先に物事を決めるのだ。

そんな生活をして何が楽しい。
昔、知人にそんなことを言われた。

お前の生活は人間臭くなくてイタイと。
何とでも好きに言えばいいと砂井は思う。

どんな暮らしをしていようが生活なんて大して楽しくない。
自分が傍の目にどう映ろうが構ったことはなかった。



 買い物を終えて外へ出ると、夏の西日が目に沁みた。
まとわりつく暑さを掻き分けて、裏手にある小さな公園へ入る。

日没間近の公園には、もう誰の姿もなかった。
沈むような疲れを感じて木陰のベンチに腰を落とした。

酷暑のせいでも仕事のせいでもない、もっと深い場所から込み上げてくる絶望のような疲れだった。
暫く呆然としたあとで、思い出してオムライスを黙々と口へ運んだ。

不味くはないが美味いとも思わない。
わけのわからない調味料で機械的に作られた血も気もない味だ。

それでも十分だと自嘲しながら、砂井は偽物のような米粒を噛み締めた。
自分の生き様にこんな相応しい味はないような気がした。
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