第3話

文字数 687文字

 女の肌に触れた。
擦るように強く愛でて縋った。

最期の瞬間に、一通り女の感触を自分の中に残しておきたかった。

淡雪を溶かし込んだような白い肌も、波を打つように激しく隆起した胸の膨らみも、瞬きと共に零れ落ちた涙も、荒くなった呼吸の一つ一つまで、全てを自分ひとりだけのものにしようと必死だった。

慟哭のような女の悲鳴すら、意識の中には届かないほど。
そこには、微塵の憎しみも、悪意も、把握できるだけの意識すらなかった。

ただ必死に愛を貪り、愛を放った。
それだけだった。


 気付くと、女の身体は微動だにしなかった。
彼女の呼吸が止まっていることに、その身体から生が抜け落ちていることに、自分は気付きもしなかった。

そして、その女から一切を奪ったのが自分自身だということさえ判らなかった。
知らないうちに泣いていた。

何故泣いているのかは解らなかった。
感情があるのかさえ判然としないまま、まるで目に見えない何物かに傷付けられたような感覚で、ひたすらに慟哭を繰り返した。

その果てで、小さな瞳とぶつかった。
少女は、宝石のような艶のある瞳を一心にこちらに向けて、動かなくなった女の姿を見つめていた。


「ごめん……ごめんね…………」


反射的に言葉が漏れた。
声になった感覚はない。

ただ、そう言わなければいけないことだけは、身体が覚えていた。

少女は、未だ嘗て見たことのない強い瞳をこちらに向けて、ただ黙っていた。
状況を把握したわけではないだろう。

理解できる力もまだなかったと思う。
だが、こちらに向けていた感情だけは、確かに的を得たものだった。

不信感。
憎悪。

恐怖。
軽蔑。

それは、女から向けられたものと何一つ相違なかった。

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