第23話
文字数 609文字
原は、協力雇用で雇い入れた者たちの事情を開けっ広げにしなかったが、同僚たちの話によれば、砂井は、前に働いていた工場の同僚を相手に詐欺を働いたらしい。
若い頃から万引きや恐喝の常習犯だったとも聞いた。
本当のところは知らないが、小学生の頃に両親を一度に亡くし、その後は親戚の家に引き取られたが、家出をしては非行を繰り返し、補導されていたそうだ。
歳は高也より五つほど若く、まだ三十を少し出たばかりだったが、妙にこちらを見下すような軽薄さが、彼はあまり好きではなかった。
一応、それが伝わらないような態度を職場では心がけていた。
が、仕事帰りの完全な個の時間に、無理してまで付き合いたい相手では決してなかったのだ。
「ごめん、今日は本当に帰らなくちゃならないんだ」
「帰るって、何処にですか?」
腹に嫌なものをたっぷりと含めた言い方で砂井が訊いた。
「何処にって、家に決まってるだろう」
「へえ……どっちの家だろ」
今度は耳を掠めるような音で呟く。
その後で、じっとりと貼り付く汗のような笑みをこちらに向けた。
「俺、葛木さんのこと、色々知ってるんですよね。少年時代のことから、つい最近のことまで。葛木さん、昔は名前、違いましたよね?実は俺もガキの頃、岐阜に住んでたことあるんですよ。
光栄だなあ、葛木さんみたいな有名人に会えるなんて。ずっと興味あったんですよね。子どもながらに、そういうことした人って、どんな人生を送るんだろうって」
「………………」
若い頃から万引きや恐喝の常習犯だったとも聞いた。
本当のところは知らないが、小学生の頃に両親を一度に亡くし、その後は親戚の家に引き取られたが、家出をしては非行を繰り返し、補導されていたそうだ。
歳は高也より五つほど若く、まだ三十を少し出たばかりだったが、妙にこちらを見下すような軽薄さが、彼はあまり好きではなかった。
一応、それが伝わらないような態度を職場では心がけていた。
が、仕事帰りの完全な個の時間に、無理してまで付き合いたい相手では決してなかったのだ。
「ごめん、今日は本当に帰らなくちゃならないんだ」
「帰るって、何処にですか?」
腹に嫌なものをたっぷりと含めた言い方で砂井が訊いた。
「何処にって、家に決まってるだろう」
「へえ……どっちの家だろ」
今度は耳を掠めるような音で呟く。
その後で、じっとりと貼り付く汗のような笑みをこちらに向けた。
「俺、葛木さんのこと、色々知ってるんですよね。少年時代のことから、つい最近のことまで。葛木さん、昔は名前、違いましたよね?実は俺もガキの頃、岐阜に住んでたことあるんですよ。
光栄だなあ、葛木さんみたいな有名人に会えるなんて。ずっと興味あったんですよね。子どもながらに、そういうことした人って、どんな人生を送るんだろうって」
「………………」