第14話

文字数 777文字

小宮は、愛の死亡推定時刻、群馬にある工場で夜間勤務に入っていた。
上司や同僚たちが何人も証言しているので、間違いないはないという。

強姦が目的の犯行となると、犯人の絞込みは難航するだろうと、平川は重い息を落とした。


怨恨等による殺人であれば、人間関係を洗っているうちに、ある程度容疑者を絞り込むことができる。

だが、不特定多数の中から、ランダムで被害者が選ばれた場合、その逆を辿って犯人を特定するには時間がかかる。

生憎か、幸いか、ここ最近、この界隈で似たような事件が起こったという報告はない。
もっとも、性犯罪ともなれば、頑なに口を噤む被害者が少なくないのも事実なのだが。


どう思うかと、突然、松野は平川から意見を求められた。
珍しく松野が口を結んでいたからだろう。

しっくり来ない。
ひとしきり渋ったあとで、松野は仕方なくそう答えた。

「何だかチグハグなことばかりで、わけが解らないんですよ。同じアパートの隣人は、争うような物音は聞いているのに、怒声や悲鳴は聞いていないと言っていた。

あれだけ抵抗し、揉み合いになったのなら、大声を上げて助けを求めるのが自然な気がするんです。それに、胸に刺さったナイフから、遠山愛以外の指紋が検出されていないのも気になります」


「悲鳴が聞こえなかったのは、ナイフで脅されてたからじゃないですか?声を出すなって。ナイフの指紋は、揉み合った時に付いたんですよ。犯人は手袋でもしていたんじゃないですか?」

小村がすかさず割って入った。


「だとしたら、腕にあったあのKの切り傷は、いつの時点で付いたものだ?犯人と揉み合ってナイフを奪おうとしたなら、そんなことをするよりも、先に相手を傷つけたほうが、助かる確率は上がる。

彼女の部屋から、切り傷を付けるために使用したと思われる刃物などは一切見つかっていない。その説明もつかないんだよ」


それはと小村も口篭った。
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