第11話

文字数 787文字

東京出身だという母親の遺伝からか、一目置かれる家柄の品格からか、愛には、他の生徒と交えていても浮き立つような雅やかさがあり、端正な顔立ちと相まって、男女問わず人目を引いた。

一方で、完成された美しさがそうさせるのか、彼女には、成熟したものだけに許されるような独特な憂いもあった。

それを、一部の連中がひねくれた感情で受け取っていたのも事実だった。

社交的な雰囲気は十分に漂わせているのに、彼女に戯れる友人が少なかったのはそのためだろう。
その後、愛はどういう理由か、三年の夏休み明けに高校を自主退学している。

大学生の恋人と駆け落ちしただとか、モデルのスカウトを受けたとか、海外留学するためなど、当時は、様々な噂がまことしやかに飛び交った。

しばらくして、東京に出たらしいという話も聞いたが、本当のことは判らないまま、特別気にも留めず月日を重ねた。



その彼女と十年ぶりに再会したのは、四ヶ月ほど前のことだった。

桜の花弁が跡形もなく散り去った春の午後、買い物に出た吉祥寺のショッピングモールで彼女の姿を見つけたのは、本当に偶然だった。

上京してから見違えるように華美になった友人もいるが、遠山愛は高校生の頃と大して変わりはしなかった。
元々、都会じみた華やかさや品位のようなものは先天的に持ち合わせていたからかもしれない。

寧ろ、肩を張って都会的を誇張し過ぎる派手な連中よりも、一足引いたような慎ましさを感じた。



愛とは頻繁に連絡を取り合っていたのかと訊かれて、夏葉は時々だと答えた。


「私は専業主婦の身ですけど、愛ちゃんは仕事がありますし、その……不規則というか、何時なら時間があるのかよく解らないので、こちらからは、電話はあまりしないようにしていました」


愛の仕事のことを知っていたのかと、すかさず刑事が訊ねる。
その目が、蔑むような差別的な感情を孕んでいるように映って、夏葉は思わず力んで男を見た。
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