第17話

文字数 730文字

「もし娘さんが自殺だったなら、我々の捜査は必要なくなります。けど、まだそうと決まったわけではありません。殺された可能性だって十分にあるんですよ。

もし娘さんを殺した人間がいるのだとしたら、そいつが何の罪にも問われずのうのうと生きていたら、あなたはそれを許せるんですか?

悔しくないんですか?我々はそれを許すわけにはいきません。もしもこれが殺人なら、全力で捜査して、必ず犯人を逮捕します。それが我々に出来る精一杯の供養ですから」



「あなた方が尊重するのは、亡くなった者の思いだけですか?残された者たちにだって人生はあるんですよ。私たちはこれから先も生きていかなければならないんです。生きている者たちの思いだって同等に尊重されるべきだわ」


「我々は、ご遺族の気持ちを蔑ろにしているつもりはありません。寧ろ、その悔しさや悲しみが解るから、罪人を野放しにはできないんです」


「そういうことではありません。もしこれが殺人事件なら、世間に一斉に報道されますよね?愛の経歴も職業も、父親の名前も、何もかも全部。あることないこと好き放題に書かれるに決まってるわ。

主人には知事選の話が出ています。秋には息子たち夫婦に子どもも生まれる予定なんです。愛のことで、私たちの生活を潰すわけにはいきません」



「そんな…………」


興奮して息巻く男の肩を抑えて、松野は顔を顰めた女の前に寄った。


「遠山さん、もし殺人となれば、立派な刑事事件です。非親告罪ですから、ご遺族の意向は関係なく、私たちは捜査をしなければなりません。

報道機関には、愛さん個人の尊厳や、ご遺族の生活を傷付けることのないよう、こちらから厳重に配慮を促します。ですから、どうかご理解ください」


母親は変わらず顔を顰めたまま、何も答えなかった。
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