第7話

文字数 795文字


  二〇一九年 七月二十三日

 遺体の様を見て絶句したのは、まだ経験の浅い刑事ばかりではなかった。
刑事課に配属されて二十年目に入った松野(まつの)広信(ひろのぶ)もまた、例外ではなかった。

 東京都三鷹市上連雀にある古いアパートの一室で、女性の変死体が発見されたと一報を受けたのは、闇も底をつき始めた、午前二時過ぎのことだった。

連絡を受け、現場に向かった松野を含む三鷹署刑事課の面々を待ち受けていたのは、過剰に恐怖を煽るホラー映画の一幕のような光景だった。


 1DKの室内は爆撃でも受けたかのような酷い荒らされ様で、テレビや本棚といった大型の家具に至るまで乱雑に転がっていた。

白い壁紙には狂気を描いたような凹みが無数に散らばっている。

亀裂を刻んで所々剥がれ落ちた姿見には、赤い筋が走っていて、部屋中のあちらこちらに、面白がって吹き付けたような鮮血が滲んでいた。


アパートの二階にある現場の玄関は施錠されていたが、ベランダに繋がる窓は開けっ広げの状態だったという。

ベランダの柵を巧く使えば、体力に自身のある者や、こういった犯行に手慣れた者ならば幾らだって侵入は可能だろう。

何者かが侵入したのであれば、恐らくそこからに違いなかった。



この部屋に一人で暮らしているという二十代の女は部屋の隅にあるバスルームの中から発見された。

その有り様もまた、一同が目を背けたくなるようなものだった。

心臓を的確に狙ったのか、悪い悪戯のように、左胸にはサバイバルナイフが突き刺さった状態だった。
それだけではない。

顔だけでなく、全身が叩き付けられたような傷と痣で埋め尽くされていた。
まだ卸したてのように見える純白のワンピースも、殆どが鮮血で染まっている。

強姦目的による他殺なのか、女はショーツを身につけておらず、上半分も刃物のようなもので切り裂かれていた。

それが下着にまで達していて、片方の乳房が剥かれたように露になっていた。
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