第24話:M友学園と加K学園事件

文字数 1,520文字

 記者は、自分が取材で得た情報を当事者や担当の当局にぶつけて、その反応を見て、事実かどうか、感触をつかむ手法のことだ。その財務局の担当者の反応で、この記者は「おそらく間違いないだろう」という感触を得た。しかし、まだ100%%確定ではない。財務局以外にも取引価格を把握している当事者がいるじゃないか、M友学園だ。

 記者は、学園に電話でKI理事長へのアポイントを申し込んだところ、電話を取り次いだ職員は、「悪く書かれるので、朝日新聞さんの取材は結構です。理事長は忙しいので、時間はとれません」と拒否した。価格を確認するための残された手段として、近畿財務局に情報公開請求した。

 当局への情報公開請求では、その公文書が存在しない場合もあれば、全て公開されることもあるし、一部が、黒塗りになって出てくることもある。M友に関する場合、請求してから出てくるのに長期間待たされたということもあった。今回の土地取引についての場合、文書は出てきたが、価格の部分はやはり黒塗りだった。

 残された最後の手段として、もう一度、KI氏に直接取材を試みることにした。以前にアポを断られていたので、KI氏がいるはずの幼稚園に記者が直接行って、会ってほしいと頼んだ。すると、ちょうどそのときKI氏は在園していた。意外にもすんなり、園長室に通された。

記者「価格は1億3400万円じゃないですか」
KI氏「そうそう。別に公表しても構わない」
記者「非公表にして欲しいと財務省に強く言ったんじゃないんですか」
KI氏「いや強くじゃないよ。普通に言った」
「別にそんな公表してもらわんでも良いのじゃないのという程度です」

 本当にKI氏が強く言ったから財務局は非公表にしたのか、それとも別の理由があるのか。そこにはまだ疑問が残るものの、これで金額は確定した。2017年2月9日にこんな見出しの記事がY新聞に掲載された。
「国有地の売却額非公表。価格、近隣地の1割か」
M友学園問題はこの記事が発端となり、安倍氏が国会で追及を受けることになった。

「この問題の本質は行政の公平性にある」と羽根は言う。本来、行政は平等公平であるべきなのに、権力者の周りにいる人だけ良い目をしているのではないか。優遇され、特別扱いされているのではないか。そうなると日本の民主主義がおかしくなってしまう。そうした問題意識が根底にある。「非公表」は、ネットでも探せば分かった情報だ。ネットには膨大な情報が公開されていた。

 一方、実はそういう情報があるということを把握することは難しい。羽根は「ネットの膨大な情報から必要な情報を探し出し、適切に報じることも、いまのジャーナリズムの役割と思う」と振り返る。「価格が近隣の1割か」という記事の根幹部分は、朝日新聞の調査報道がなければ表に出なかった。公文書は国民共有の財産」と法律にもうたわれている。

 行政の透明性を確保する上で公文書はできる限り開かれたものでなければならない。行政の説明責任そのものだ。「日本が民主主義国家の先進国なら、それにふさわしい政治、行政でなければいけない」2月9日「M友学園」への国有地売却が近隣の国有地より格安だったことが判明。2017年1月、「加K学園」は52年間も認可されてない獣医学部を新設する「国家戦略特区」の事業者に選定された。

 ただ、加計孝太郎理事長が首相の「長年の友」であったため「特別の便宜」を疑われています。安部首相や政府は関与を否定していた。しかし、愛媛県職員が作成したという備忘録には「柳瀬唯夫首相秘書官『当時』と面会し『本件は首相案件』と言われた」などと記されていたため、柳瀬氏は、2018年5月の国会に参考人として招致された。
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