第36話 迷探偵の父は悔いる

文字数 1,073文字

…そうか、でも、あいつが今無事なら良かった。
家並さんの命を狙ってる人がいる以上、油断はできませんけどね…
…ところで、さっき思い出した事なんだが、3年前の事件や娘の命が狙われてる事と、何か関係があるかもしれない事なんだ。

話していいか?

どうぞ。家並さんに関する事なら、知っておきたいです。
…実は、過去にも学生を狙った殺人事件が何件か起こっててな…

どれも、猟奇的且つ計画的な犯行…しかも、被害者はどれも、その場にいた全員だ。

あまりにも似た事件が多発するもんだから、気になって俺自身も調査をしてみたんだ。
…そうしたら、どの事件にも共通する名前が浮かび上がってきたよ。
…モリアーティと名乗る奴に気をつけろ。
…え、それって…!
…なんだ、知ってるのか。
家並さんの命を狙った人達のボス…らしいです。
…そうか。
…ところで、最雅さんは、家に帰る気は無いんですか?
…無えな。ジエウさんには良くして貰ってるし、ここでの暮らしも心地いいんだ。…それに、俺は、あの家にはもう帰れねえよ。
…と、いうと?
…俺には、あの家にいる資格は無えんだ。

俺のせいで、あの二人にはつらい思いをさせちまったからな…。

…俺は、紗音の友達と恩師を殺された時、仕事で家に戻れなかったんだ。俺は、あいつが一番つらい時に、あいつの側にいてやれなかった。…あの時も同じだ。
…あの時?
…ああ。もう18年も昔の話だ。俺たちには、当時一人息子がいてな…。そいつが、熱を出しちまったんだ。俺はその時も、仕事で家に帰れなかった。
…その息子さんは…
…死んだよ。俺は、あいつの死に目に会えなかった。

菫には、すごく怒られたよ。家族と仕事、どっちが大事なの、ってな。

だから、せめてもう二度と家族に悲しい思いをさせまいと、菫と紗音のために尽くしてきたつもりだった。…でも結局、俺はあの時と同じ過ちを繰り返した。
…父親失格だろ?
…最雅さん、そんな事があったなら尚更、あの家に戻るべきです。
…あなたは、家並さんが死にかけていたとき、すぐ側にいてあげることができなかった。…結局、同じ事の繰り返しじゃないですか。
…だったら、あなたが、家並さんのすぐ側にいてあげないと…!
でも俺には、そんな資格なんて…
資格なんて関係無いですよ。あなたは、奥さん…菫さんにとってはたった一人の旦那さんで、家並さんにとっては、たった一人の父親なんですから…
…そうか。そうだよな。

実はな、次の仕事が終わったら一度家に顔を出そうと思っていたんだ。

でも、これを機に、あの家にもう一度戻る事にするよ。

じゃあ、その時は、ちゃんと二人と仲直りしてくださいね。
…ああ。
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登場人物紹介

和戸 尊(わと たける)

14歳。中学3年生。

通称ワトソン君。

転校生の紗音に振り回される苦労人。

家並 紗音(やなみ しゃのん)

14歳。中学3年生。

御簾照中に転入してきた迷探偵。

厨二病を拗らせており、自身をシャーロック・ホームズの生まれ変わりだと信じ込んでいる。


天明 一才(てんめい かずさ)

14歳。中学3年生。

イケメンで文武両道の生徒会長。

とある事件に巻き込まれてしまい…?

樋貝 芽亜里(ひがい めあり)

14歳。中学3年生。

紗音たちのクラスメイトの女の子。

双子の兄がとある事件に巻き込まれてしまい…?

林野 幸(りんの みゆき)

23歳。自称王子様。

謎多き青年。

とある事件で、紗音たちと出会う。


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