奪う 2
文字数 1,854文字
どれ程の時間が過ぎたのか。
それが目を開いて桃色のそれを見せる時まで、彼は無理に起こすこともなく、だがほとんど動かず横たわっているその姿を飽くこともなく眺めて、空色の髪を撫でていた。他に何をするでもなく、けれどその時間は酷く穏やかで、心地よさすら与えるのだから不思議だった。本当にそれ以外に何もしていないのにも関わらず。
彼女が目を覚ましたのは突然だった。
ぴくり、とその腕が一瞬動いたのを当然見逃さなかったゾルデフォンは、しかしそこから動くこともなく覚醒する様をずっと見ていた。ゆっくりと大きな目が開いて、最初はぼんやりと瞬いた後、ハッと何かに気づいたように起き上がる。そこでようやく彼女は自分の背中の異変と、目の前の悪魔に気がついた。
何もなくなった己の背中と、目の前にいる悪魔。
それを交互に見た上で、彼女は一般の天使が最も先に導き出しそうな結論を、呟く。
「魔界の侵攻?」
「違う」
思わず即答したのは、単純にそんな下らないことと同じにして欲しくなかっただけである。実際には現状あの軍団長とその補佐が健在である限り、2つのバランスは明らかに天界の方に傾いてしまっている為、その状況において魔界が天界と戦争しようなどという気を起こすことはまずありえないのだが。
そんなことは彼女が知る必要もないだろう。
だが即座に否定された事でエルダは逆に困った顔をした。他に理由が思い浮かばなかったらしい。
「では、何故? それに、ここは一体」
今いる部屋の窓は完全にカーテンに覆われているのもあり、その向こうが夜空、つまり天界ではありえないものであるのをうかがい知ることは出来ない。彼女をして、完全に見覚えのない部屋で、知らぬ悪魔しかいない状態、である。
だが意外に動揺している様子はなく、兎に角、現状把握に努めようとしている所は、その知性を感じられて好ましい。
彼は、その頬にそっと手を伸ばす。
天使故に構造からして人間と異なるし、故にたとえその力の大部分を失ったとて簡単に壊れるような存在ではないのをわかっていて尚、触れた瞬間に感じた柔らかさに彼はその存在が酷く簡単に壊れて無くなりそうな、そんな想像すらしてしまう。実際今の彼がこの力すら失った存在を蹂躙するのは容易い。
触れられた瞬間にびくっと身じろぎしたけれど、しかし彼女はそれ以上逃げようともせずに、じっとその双眸で目の前の悪魔を見上げてきた。体格差から階級の差もわかっているだろうに、既に自分の力が限りなく損なわれていることも気づいているだろうに、決してただ怯えるだけでないその様子がますます好ましくて。
余計に、欲望が疼く。
別に痛めつけたい訳ではない。ただ、違う顔も見てみたいと思う。それは本当に単純且つ強い、悪魔にとっては行動の理由となりえるもの。
故に。
「んっ!?」
彼はいきなりその綺麗な薔薇色の唇を己のそれで塞ぐ。
いきなりのことに反射的に逃げようとするその頭と体を簡単に両の腕だけで封じて、更に互いの繋がりを深めると、逃げ場をなくした細い腕が弱く彼の体を叩いたけれど、それも直ぐに無くなる。
こういう行為を彼が自ら望んで行うのは実は初めてだったのだけれど、蹂躙する中で伝わるその感触も腕の中にその存在があることも密着したことで更にはっきり伝わってくる花のような香りも何もかもが、彼の中にある欲望を更に強く大きくさせていくものでしかなく。この行為に関して、そんな風に思うのは初めてだった。
単なる接触行動としか思ってなかったそれが、相手が変わるだけでここまで欲をかきたてる行為だったとは思っていなかった。
成る程常にこういうものを誰にでも感じるのであれば、この行動を欲の源泉としている悪魔が複数存在するのも頷ける。ただ、彼に限っては間違いなく、こんな風に感じるのはこの相手のみであるだろう自信があったが。
相手が彼女ならば、むしろこれは酷く楽しい行為だ。
否、もっと奥まで蹂躙したくなる。最後の最後まで、その体の全てを味わい尽くしたいという欲求すら、生まれる。
唇を食み、逃げる舌を追いかけて絡め、更にはその口内を隅々まで蹂躙して撫で回し。少しずつ位置を変えながらも続けられる激しい行為に、逃げることすら許されず声を上げることも出来ないままで、人間のように息をしていないが故に窒息することすら許されない彼女は、ただ受け止める以外にできることがない。
その様すら愛らしい。
結局、そこで更に欲が高まった彼は、繋がったままで彼女を寝台に押し付けた。
それが目を開いて桃色のそれを見せる時まで、彼は無理に起こすこともなく、だがほとんど動かず横たわっているその姿を飽くこともなく眺めて、空色の髪を撫でていた。他に何をするでもなく、けれどその時間は酷く穏やかで、心地よさすら与えるのだから不思議だった。本当にそれ以外に何もしていないのにも関わらず。
彼女が目を覚ましたのは突然だった。
ぴくり、とその腕が一瞬動いたのを当然見逃さなかったゾルデフォンは、しかしそこから動くこともなく覚醒する様をずっと見ていた。ゆっくりと大きな目が開いて、最初はぼんやりと瞬いた後、ハッと何かに気づいたように起き上がる。そこでようやく彼女は自分の背中の異変と、目の前の悪魔に気がついた。
何もなくなった己の背中と、目の前にいる悪魔。
それを交互に見た上で、彼女は一般の天使が最も先に導き出しそうな結論を、呟く。
「魔界の侵攻?」
「違う」
思わず即答したのは、単純にそんな下らないことと同じにして欲しくなかっただけである。実際には現状あの軍団長とその補佐が健在である限り、2つのバランスは明らかに天界の方に傾いてしまっている為、その状況において魔界が天界と戦争しようなどという気を起こすことはまずありえないのだが。
そんなことは彼女が知る必要もないだろう。
だが即座に否定された事でエルダは逆に困った顔をした。他に理由が思い浮かばなかったらしい。
「では、何故? それに、ここは一体」
今いる部屋の窓は完全にカーテンに覆われているのもあり、その向こうが夜空、つまり天界ではありえないものであるのをうかがい知ることは出来ない。彼女をして、完全に見覚えのない部屋で、知らぬ悪魔しかいない状態、である。
だが意外に動揺している様子はなく、兎に角、現状把握に努めようとしている所は、その知性を感じられて好ましい。
彼は、その頬にそっと手を伸ばす。
天使故に構造からして人間と異なるし、故にたとえその力の大部分を失ったとて簡単に壊れるような存在ではないのをわかっていて尚、触れた瞬間に感じた柔らかさに彼はその存在が酷く簡単に壊れて無くなりそうな、そんな想像すらしてしまう。実際今の彼がこの力すら失った存在を蹂躙するのは容易い。
触れられた瞬間にびくっと身じろぎしたけれど、しかし彼女はそれ以上逃げようともせずに、じっとその双眸で目の前の悪魔を見上げてきた。体格差から階級の差もわかっているだろうに、既に自分の力が限りなく損なわれていることも気づいているだろうに、決してただ怯えるだけでないその様子がますます好ましくて。
余計に、欲望が疼く。
別に痛めつけたい訳ではない。ただ、違う顔も見てみたいと思う。それは本当に単純且つ強い、悪魔にとっては行動の理由となりえるもの。
故に。
「んっ!?」
彼はいきなりその綺麗な薔薇色の唇を己のそれで塞ぐ。
いきなりのことに反射的に逃げようとするその頭と体を簡単に両の腕だけで封じて、更に互いの繋がりを深めると、逃げ場をなくした細い腕が弱く彼の体を叩いたけれど、それも直ぐに無くなる。
こういう行為を彼が自ら望んで行うのは実は初めてだったのだけれど、蹂躙する中で伝わるその感触も腕の中にその存在があることも密着したことで更にはっきり伝わってくる花のような香りも何もかもが、彼の中にある欲望を更に強く大きくさせていくものでしかなく。この行為に関して、そんな風に思うのは初めてだった。
単なる接触行動としか思ってなかったそれが、相手が変わるだけでここまで欲をかきたてる行為だったとは思っていなかった。
成る程常にこういうものを誰にでも感じるのであれば、この行動を欲の源泉としている悪魔が複数存在するのも頷ける。ただ、彼に限っては間違いなく、こんな風に感じるのはこの相手のみであるだろう自信があったが。
相手が彼女ならば、むしろこれは酷く楽しい行為だ。
否、もっと奥まで蹂躙したくなる。最後の最後まで、その体の全てを味わい尽くしたいという欲求すら、生まれる。
唇を食み、逃げる舌を追いかけて絡め、更にはその口内を隅々まで蹂躙して撫で回し。少しずつ位置を変えながらも続けられる激しい行為に、逃げることすら許されず声を上げることも出来ないままで、人間のように息をしていないが故に窒息することすら許されない彼女は、ただ受け止める以外にできることがない。
その様すら愛らしい。
結局、そこで更に欲が高まった彼は、繋がったままで彼女を寝台に押し付けた。