奪う 3<魔界の記録「書」の前にて>(※諸事情で本文改稿)
文字数 1,041文字
「さてこの部分だが……あー、うん、まぁそうなるよな」
内容を修正するために書の記録を確認していたソレーズは苦笑いする。
当の悪魔(というかその向こうの中天使)からの申請により削除しなければならないのは「そういう行為」の部分であるが、ここはまさしくそれに該当する箇所である。
簡潔に言うならば。
天界から連れ帰った天使を手篭めにする
という、身も蓋もない行為をゾルデフォンが行ってしまった部分だ。
その行為自体をソレーズがどうこう思う訳ではない。
悪魔にはそんな貞操観念や善悪はないし、立場上過去の記録もよく見ている彼をして、天使に恋した悪魔がそういう行為にすぐ走ってしまうのは見慣れた結果ですらある。恋の衝動は各々異なるとはいえ、この行為は一つの情動伝達行為である訳で。
恋をした相手に対して、この手の衝動を抱くのは普通であり、その点「あの朴念仁にもそういう衝動があったのか」と思う位である。
記録を見ても明らかだが、長らく何に対しても心を動かされることのなかったあの悪魔貴族が、中天使に対して驚くほど情動をむき出しにしている場面がそこにはある。
それに対して天使の方は酷く混乱して取り乱し、言うまでもないが合意など程遠い様子であるが。
これもまた、悪魔と天使の恋の関係では珍しくない。
もとより彼らの恋は、互いに抱く確率がほぼない一方的なものだ。特に悪魔がそれを抱けば、対象の天使の合意など考えずに、ただ手に入れるために動いてしまう。人間の原型である天使と悪魔は、生殖活動こそしないがそういう行為は可能だし、それによって得る快楽もある。だからこそで。
悪魔とはそういうものだ。
欲に忠実、とはそういうことだ。
手に入れるための一手段として、それをやってしまう。
つまりそこには、古来から悪魔の恋で繰り返されてきた場面があるわけだ。
「ここはアレだろ。天使を手篭めにした、ってだけだな」
言いつつソレーズは書の記録を書き換える。
元の記録よりもかなり内容が減っているものの……詳細を残す意味は、あまり無いだろう。
「逆に、普通にこんなことしちまって、よくまぁ結果がああなったもんだ」
今のゾルデフォンの状態に少しだけ思いを馳せ、ソレーズは首を傾げた。
その答えは、この先の記録にあるのかもしれない。
(2017.9 改訂版掲載
この部分の話がなぜこうなったのかは、この先の話「魔界の記録」にて。)
※ざっくり言えば元の記録は引っ越し前の住処にて審査に引っかかったので、全面書き直しました。