感じる 3<魔界の記録「書」の前にて>(※諸事情で本文改稿)

文字数 1,191文字

 なかなか濃密な内容である。
 真名交換をしたからという訳ではないだろうが。
 天使もこれだけ乱れるのだなぁ、といっそ感心しながらソレーズは記録を確認した。
 他者のそういう行為が好きなものが見れば楽しいかもしれない記録であるが、興味のないソレーズにとってはちょっとした感想を抱くだけのものである。行為の内容に対してそこまで関心もない。
 削除要請を出した側からすれば見られたくないのだろうが、記録の修正をするからには内容を知ってしまうのは仕方ない。身体構造からしてそういう可能性があるのはわかっていても、実際に天使も快楽に浸れるらしいという余計な知識が出来るだけで、他の誰に言うでもないので許してほしいものだ。
「まぁゾルだってそれはわかってんだろ」
 ゾルデフォンも、書の削除にはどういう作業が発生するかは知っている。
 その上でこの点には言及がなかったのだから構わないだろう、とソレーズは一人で納得した。
「だけど不思議だよなぁ」
 内容を削除しつつ首を傾げる。
「ここまで傾倒しても、恋はしてないんだからなぁ」
 明らかに己の意思でゾルデフォンに対して心身を委ねた天使だが、どう見ても心を通い合わせていてなお、恋をしているのは悪魔の側のみなのだ。それでも関係が成立するというのがソレーズからすれば不思議でしかない。
 そんな関係でいいのかと思うものの、堕天してない天使は嘘がつけないのだから、言動の全部はそのまま事実である訳で。
 だからこそ、ゾルデフォンを喜ばせた。
 おそらく最初に望んでいた「そのままの天使が欲しい」という希望の大部分は叶えられた状態、なのだろう。
 彼女が己の意思で受け入れてくれるという事実が、今のあの悪魔の拠り所なのだ。
「恋とは面倒なもんだな」
 最後の方では天使の言質をとってさらなる快楽を楽しんだりしているものの、結局己のほとんどを天使に委ねている危険な状態にはなんら変わりはない。万が一天使が心変わりをしたら、真名を掴まれているゾルデフォンにはどうしようもないだろう。
 ソレーズには想像すら出来ない、不安定な状態。
 誰かの存在に己を委ねることすら考えられない。
 この記録を見ながら思うのは「恋とか絶対したくねぇな」ということばかりである。ゾルデフォンのことも「不運にも恋の相手を見つけてしまった悪魔」としか思えない。間違っても羨ましいなどと思いすらしない。
 なんだかなぁ、と思いつつ彼はそういう行為の部分を削除する。


 この恋によってソレーズが良かったと思うのは。
 悪魔が恋に落ちても破滅しない前例ができたこと。
 天界相手の仕事がちょっとだけ楽になったこと。
「まぁ、俺にとってはそれで十分かな」
 肩をすくめて、ソレーズは苦笑いした。


(この部分の話がなぜこうなったのかは、この先の話「魔界の記録」にて。)
 ※ざっくり言えば元の記録は審査に引っかかったので、全面書き直しました。
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