観察する 1
文字数 1,880文字
始めた行為は、結局一度達しただけでは飽き足らず、何度か繰り返すうちに先に彼の腕の中の相手の方が力尽きたので、そこでもって一応彼も行為を終えた。別段満足しきった訳ではなかったのだが(むしろ抱くほどに渇望は増えた気がしている)、しかし相手の反応がないままでただ己が欲を吐き出すのを楽しいとも思えずに、何となくそれで終わった形だ。
この行為をして別に彼は欲を吐き出したい故にしていた訳ではなく、ただ相手が彼女で、その返す反応も含めて愉悦を感じていた訳で、逆に反応がなくなった身体にそこまで固執しなければならないほど肉欲を抱えていた訳ではないのだ。
欲は欲でも、これはもっと別の欲望である。
故に、意識を失った彼女をそのまま抱き続ける行為に楽しさは感じられそうになく、彼はむしろ今度は別の楽しみを見出した。
彼女のその乱れた肢体を綺麗にする行為だ。普通に魔力を使えば一瞬で終わる行為であるが、何となく、本当に何となく人間のようにそれを自らの手で行ってみたら、それが思った以上に楽しかった。自らの身は一瞬で終わらせた癖に、彼女の体を綺麗な布で優しく撫でて綺麗にしていき、更にはこれまで使う用途もなくただ何となく存在していた(この屋敷を作成した悪魔の趣味だったのだ)浴室にその体を抱えて運び込んで、丁度良い湯で綺麗に流した上で再度濡れた体を布で拭いていく。
普通に考えれば面倒なその一連の行為が、しかし相手がこの天使であるというだけでなかなかに楽しかった。
綺麗にしながら全身をゆっくりと観察できたり、湯で流している中で濡れた全身を観察できたり。とりあえずわかったのは「彼女のことをする場合に、例えそれがどういう行為であろうとも、自分にとって面倒という言葉は存在しなくなるらしい」という、非常に笑える事実であった。恋とはそれほどに恐ろしい。
ベッドまで戻り彼女を横たえて、自分の服を着て、ふとそういえば彼女の服がないことに気づく。
着てきたものは先ほど自分が破いてしまったし、このまま裸体を眺めているのもそれはそれで構わないのだが、なんとなくそれは勿体ないような気がした。こういう姿はそういう時に見られれば良いのであって、普段ならむしろいろいろ着せた方がきっと可愛らしいのではないだろうか、と。
これが、今まで他人どころか自分の服装すら殆ど気にしたことがない(実際着てるのは殆どが過去に、装いを気にする悪魔に趣味で一方的に押し付けられたものばかりである)ゾルデフォンが、創生以来初めて装いを、しかも自分でなく相手に着せるもの、で真剣に悩んだ瞬間である。
しばらく彼は、過去に見た色んな装いも思い返しつつ(一応天界に行った回数もそれなりで、魔界の方も多少知っている)、思いついたものを試しにその場で作っては着せてみた(力を使えば着脱などは簡単である)のだが、どうもどれもしっくりいかない。
どんな服装だって彼女が着れば可愛いことには変わりなかったのだが、自分が考えたものは今ひとつなのだ。
こういうのが、趣味が悪いというのか。
微妙に敗北感を覚えつつ、しかし何かは着せようと、とりあえず自分の上着を着せてみたら、それが意外にしっくりとして目を見開く。もちろん本当に、裸体の上にシャツを着てるだけなので他の誰かに見せられるような状態ではないのだが、しかし彼の前だけならば別に構わないし、これはこれで中々悪くないように思えた。
体格差で余っている袖。長い裾から伸びる細い足。広い襟元から微かに覗く胸元。
飾り気はないが、下手なものを着せるくらいならこの方が余程マシに思えたし、何より自分の服を着ている姿、というのが悪くない。むしろ大きすぎるそのシャツを着た彼女の姿は、非常に可愛らしく見えた。
とりあえず満足して彼は隣に腰を下ろすと、その長い空色の髪を撫でる。
本当に触り心地の良い、綺麗な髪だ。きっとこの髪も色々と結うなりすれば可愛らしいのだろうが、当然彼にそんな経験はないし、今の服の一件にてセンスも微妙であることに気がついたので、髪は撫でるだけに留めておく。
だがその時間も、悪くはなかった。
今頃天界では大騒ぎだろうか。今後は元凶たる彼にも何かが来るのだろうし、ほぼ何かの関係を疑われるだろうあの軍団長も恐らく何もないでは済まされないのだろうが。あれなら多分なんだかんだと適当に逃げるだろう。まぁ仮にこれで天界に目をつけられたとしてもどうでも良いことだった。
もう、大事なものは手に入ったのだから。
彼女が目を覚ますまで、彼はずっとそのまま飽きずに髪を撫で続けていた。
この行為をして別に彼は欲を吐き出したい故にしていた訳ではなく、ただ相手が彼女で、その返す反応も含めて愉悦を感じていた訳で、逆に反応がなくなった身体にそこまで固執しなければならないほど肉欲を抱えていた訳ではないのだ。
欲は欲でも、これはもっと別の欲望である。
故に、意識を失った彼女をそのまま抱き続ける行為に楽しさは感じられそうになく、彼はむしろ今度は別の楽しみを見出した。
彼女のその乱れた肢体を綺麗にする行為だ。普通に魔力を使えば一瞬で終わる行為であるが、何となく、本当に何となく人間のようにそれを自らの手で行ってみたら、それが思った以上に楽しかった。自らの身は一瞬で終わらせた癖に、彼女の体を綺麗な布で優しく撫でて綺麗にしていき、更にはこれまで使う用途もなくただ何となく存在していた(この屋敷を作成した悪魔の趣味だったのだ)浴室にその体を抱えて運び込んで、丁度良い湯で綺麗に流した上で再度濡れた体を布で拭いていく。
普通に考えれば面倒なその一連の行為が、しかし相手がこの天使であるというだけでなかなかに楽しかった。
綺麗にしながら全身をゆっくりと観察できたり、湯で流している中で濡れた全身を観察できたり。とりあえずわかったのは「彼女のことをする場合に、例えそれがどういう行為であろうとも、自分にとって面倒という言葉は存在しなくなるらしい」という、非常に笑える事実であった。恋とはそれほどに恐ろしい。
ベッドまで戻り彼女を横たえて、自分の服を着て、ふとそういえば彼女の服がないことに気づく。
着てきたものは先ほど自分が破いてしまったし、このまま裸体を眺めているのもそれはそれで構わないのだが、なんとなくそれは勿体ないような気がした。こういう姿はそういう時に見られれば良いのであって、普段ならむしろいろいろ着せた方がきっと可愛らしいのではないだろうか、と。
これが、今まで他人どころか自分の服装すら殆ど気にしたことがない(実際着てるのは殆どが過去に、装いを気にする悪魔に趣味で一方的に押し付けられたものばかりである)ゾルデフォンが、創生以来初めて装いを、しかも自分でなく相手に着せるもの、で真剣に悩んだ瞬間である。
しばらく彼は、過去に見た色んな装いも思い返しつつ(一応天界に行った回数もそれなりで、魔界の方も多少知っている)、思いついたものを試しにその場で作っては着せてみた(力を使えば着脱などは簡単である)のだが、どうもどれもしっくりいかない。
どんな服装だって彼女が着れば可愛いことには変わりなかったのだが、自分が考えたものは今ひとつなのだ。
こういうのが、趣味が悪いというのか。
微妙に敗北感を覚えつつ、しかし何かは着せようと、とりあえず自分の上着を着せてみたら、それが意外にしっくりとして目を見開く。もちろん本当に、裸体の上にシャツを着てるだけなので他の誰かに見せられるような状態ではないのだが、しかし彼の前だけならば別に構わないし、これはこれで中々悪くないように思えた。
体格差で余っている袖。長い裾から伸びる細い足。広い襟元から微かに覗く胸元。
飾り気はないが、下手なものを着せるくらいならこの方が余程マシに思えたし、何より自分の服を着ている姿、というのが悪くない。むしろ大きすぎるそのシャツを着た彼女の姿は、非常に可愛らしく見えた。
とりあえず満足して彼は隣に腰を下ろすと、その長い空色の髪を撫でる。
本当に触り心地の良い、綺麗な髪だ。きっとこの髪も色々と結うなりすれば可愛らしいのだろうが、当然彼にそんな経験はないし、今の服の一件にてセンスも微妙であることに気がついたので、髪は撫でるだけに留めておく。
だがその時間も、悪くはなかった。
今頃天界では大騒ぎだろうか。今後は元凶たる彼にも何かが来るのだろうし、ほぼ何かの関係を疑われるだろうあの軍団長も恐らく何もないでは済まされないのだろうが。あれなら多分なんだかんだと適当に逃げるだろう。まぁ仮にこれで天界に目をつけられたとしてもどうでも良いことだった。
もう、大事なものは手に入ったのだから。
彼女が目を覚ますまで、彼はずっとそのまま飽きずに髪を撫で続けていた。