感じる 1<魔界の記録「書」の前にて>(※諸事情で本文改稿)

文字数 1,136文字


「ここもかー」
 記録を洗う中で再度、該当の「そういう行為」を発見したソレーズは苦笑いをする。
 なお名誉のために主張するが、彼には「他者のそういう行為を見知って楽しむ」ような欲はひとかけらもないので、こうやって書を確認しているのも完全に流れ作業状態だ。誰かの書いた書類をチェックする行為となんら変わることはない。
 だが、別の意味で彼は内容に少しだけ興味を抱いている。
「天使にもそういう欲情はある、ってのもアレだが……」
 欲に忠実な悪魔はまだしも、天使は本来快楽や欲に流される存在ではない。そんな存在なら過去に多くの悪魔が天使相手の恋で安易に滅ぶことはなかっただろう。どんなに望んでも流されてくれないからこそ、最終的に滅びが選ばれてきた過去がある。
 だが記録の中の中天使は、明らかにゾルデフォンの行為に快楽を見出し、また望んでいる。
 現在の魔界の代表として、悪魔の恋による滅びを回避する手段があるのならば興味深い。
「何が違うんだろうなぁ」
 過去の類似の事例と、この事例。
 自分の知る記録を思い出しながらソレーズは考える。
 悪魔の方が自分の欲のままに動いているという部分では、過去の他の事例となんら変わらないのだ。けれど記録の中、明らかに天使は歩み寄りを見せ、己の意思で体を委ねることを決めた。悪魔からの行為で、恐怖や不快さではない、協力的な反応を返し始めた。
 この天使が変わり者だという可能性も当然あるが、それだけと断じるのは早計な気がする。
 過去との違い。
 しばらく考えて、はた、とソレーズは気づく。
「ゾルが変わり者だからか?」
 過去の他の悪魔は全て、己の欲のままに天使を貪り続けて壊した。
 だがゾルデフォンは最初にそれをしてすぐに「己の本当の欲はそこにない」と気づき、後悔までしている。しかもここまでほとんどの場面で馬鹿正直に天使に向き合ってきており本音しか言っていない。
 元から口が達者な方じゃない悪魔ではあるが、都合よく操るよりも「そのままの天使が欲しい」という欲を最優先にした結果として、かなり……譲歩している。
 話には聞いていたが、予想以上にゾルデフォンは中天使に、己を与えているのだ。
 何か返してもらえるとも限らないにもかかわらず。
 見返りがないかもしれないものにそこまでできる悪魔は少ない。
「でも、前例があれば、どうだろうな?」
 ほとんどの悪魔の恋がたどる破滅。
 その多くが悪魔らしい、身勝手な行為の先のものだが、仮に違う可能性があるとすればゾルデフォンのような道をたどる者も他に現れる、かもしれない。




(この部分の話がなぜこうなったのかは、この先の話「魔界の記録」にて。)
 ※ざっくり言えば元の記録は引越し前の場所で審査に引っかかったので、全面書き直しました。
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