試す 3

文字数 1,693文字

 色々考えているのだろう。多分その思考は彼で埋められている筈で、そんな様が愛しい。
 だから答えがどんなに厳しいものでも、別に彼は気にする訳ではなかったが。
「か、髪を撫でるとか、ちょっと手を繋ぐくらい、なら?」
 必死に彼女が出した結論は、既にすることはしている関係だと思えば非常に健全かつ子供じみたものではあったが、なんとなく面白くなってきた彼はそこを更に突き詰めていく。
「今試しても良いのか?」
「えっ!?」
「どれだけなら許せるのか、はっきりさせておいた方がそなたも気が楽なのではないか?」
 半分本音、半分は完全に反応を楽しんでいる。そんな彼の言葉を、けれど真面目な天使は真剣に受け止めて悩み、そして彼が想像していた通りの結論を出した。
「そうですね。で、でも駄目って言ったらやめてくださいね?」
 意を決したようにそう言う。本当に隙だらけで、愛らしい。
 とりあえず了承を得たからには存分に楽しませてもらおうかと、しかしここで下手に強引な行為をして基準が厳しくなっては後が困ると、一応気をつけつつも、ここまでずっと身動きしていなかった彼がゆっくりと側に近寄れば、強い緊張を抱えつつも意思を持った桃色の目がそれを追う。逃げは、しない。
 自分で言った手前、恐らく今出した条件の範囲ならば、絶対に彼女は逃げない。
 気づいていないだろう。その条件では「駄目」というまでなら何をしても構わない、のだと。そしてその言葉を封じて色々とするのは結構簡単なのだと。だがここで下手に警戒を強くされても後に損をしそうなので、彼はとりあえずその綺麗な空色の髪を片手ですくった。
 その一房を軽く引き寄せて、感じる愛しさそのままに、唇を落とす。
「っ! あの」
「触れているだけ、だが」
「うぅ。そうです、けど」
 表情は然程変わらないし、実際に変わってない自信がある彼だが、恐らく目には明らかにその情は出ているだろうし、実際目の前で彼を見ている彼女には、側にいる分余計にはっきりとそれが見えているだろう。その行為で恥ずかしそうに身じろぎしているのが良い証だったが、それをもって彼の内心にどれ程の愉悦が生まれているのか、間違いなく彼女は解っていない。
 そして駄目と言いそびれるその迂闊さに、更につけ込むよう、彼は更に手を伸ばしてはその髪を撫で、身を乗り出して頭頂に唇を落とす。その瞬間にビクッと動く彼女の全身。
「同じだろう?」
「お、同じ、ですけどっ」
 触れ方としては確かに同じ、であるのは事実だとて、それをしてる間に体の距離が限りなく0になっている状態では同じ、ではないのだが、どうやらそれには気づかないらしい。体が反応しているのもその距離のせいだと思われたが、制止の言葉は出てこない。
 本当に可愛らしい、と思う。
 恐らく、何かの愚かさや迂闊さを愛しいなどと思えるのは、この相手だけだろう。
 そんな事を思いながら、彼は更に彼女の手を取る。彼自身のシャツの奥にある白い細い手を、ゆっくり袖をまくって露わにし、そして指同士を絡め合わせるよう、小さな手を握る。簡単にただ握るのではなく、情事の際の愛撫を思わせるような、明らかに意図を持ったその動きに、制止の為かそれとも反射か、彼女からは空いた方の手が伸びてきたのだが、その手も更に同じように握ってしまう。
「あ、あのっ」
「繋いでいるだけ、だが」
 ぐ、と押し黙ってしまったのは、一応本当に彼が両の手とも繋いでいるだけで、それ以上は何もしていないから。
 実のところ彼女が何を言いたいのかは解っていたのだが、しかしあまりの可愛さにとりあえず「許されている範囲」の事をしてしまった訳で。非常に近くにいるその状態に、ちょっと俯いた彼女はぽそっと呟く。
「意地悪です」
「嫌か?」
 本当に嫌がっているなら何時離しても構わない故にそう問えば、少しの沈黙の後に。
「あ、貴方はこうしてるの、楽しいのですか?」
「あぁ」
「なら、もうちょっとだけ、こうしててもいいです。もうちょっとだけですけど」
 なんて可愛らしい事を言うものだから、思わずその空色の頭頂部に再度唇を落としてしまったのは、最早仕方のないことだろう。
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