第12話 「もうダメだ」と思うということ

文字数 228文字

 公園の、池のボート。
 ふたりの恋人が乗っている。男が漕いでいる。
 女は、とにかく、「もう私はダメなのだ」と思っている。人生に、絶望していたのだ。

 ボートが転覆する。だが、そこは足がすぐ着くほどの浅瀬だった。
 しかし、女は、もう自分はダメなのだと思い続けているから、立つことができない。
 女は泥水を飲み、手足をばたばたさせている。
「立てるのに! 立つことができるのに!」男が叫び、手を差し出す。
 だが、女は溺れ続けている…

 そんな、椎名麟三の小説があった。
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