第27話 条件

文字数 987文字

 この世のありとあるものが、条件づけられた下に生成される。
 日陰に育つ植物は、影のない所に育たず、日照に育つものは日陰に育たず、蔓性のものは木々に絡みつき、宿り木は高木の枝に宿って育つ。

 鳥は木々に巣を作り、魚は川の中で産卵し、蝉やモグラは土がなくては生きられない。各々、それぞれに独立して生態を営んでいるように見えるが、木も土も川も、それぞれに依存し合って、はるかな時間をかけて共存してきた。どれか1つが失われたら、微妙なバランスが崩れてしまう。

 人間界では、障害者は役に立たないから殺しても構わないとして、実際に事件も起きた。「罪と罰」のラスコーリニコフばりの動機づくり。
 元来、この世界に差別などないのに。

 生命は、自然から生まれ出たものなのに。それは、おのずからおのずと為し、おのずの内におのずを育むもの。
 生命に、価値などつけられるわけがない。それはそれとして在り、これもこれとして在り、あれもあれとして在るものだ。

 各々、独立しながら、網のように繋がっている。
 不要なもの、無用のもの、役立たずのものなど、この世にあり得ない。不要も必要も、無用も有用も、相対に過ぎない。荘子は、それを越えたところに生きた。

 意味づけ、定義づけの人為はやめて、無為であること。無為であるという意識もなくすこと。
 そのために、タイやスリランカでは、いまも修行をしている僧侶たちがいる。しかし、荘子はそのような修行を経ず、いきなり「空」へ行ってしまった。
 すべてを包み込む無限の無。内へ内へと行きながら、さっさと外へ行ってしまった。
「存在は、このたった今の今でしかない。死すれば、生がやって来たところへ還るのだ。何も悲しむことはない」と言って、妻の死の際にも盆を叩いて歌を歌った。

 条件づけられた下で、芽吹いたものがそれぞれに伸びていく。生きるには、条件が必要だ。その条件が、なぜあるのか、知る由もない。
 植物の種は、鳥に落とされ、人間に植えられ、そう「された」場所から、動けない。そこで芽を出し、根を張って行く。
 その土に順応しようとして、本来の自分を変化させるものもあれば、その土の質を、自分が育つために変えてしまう成分を出すものもあるという。
 いずれも、すごい、知恵だ。誰に教わったわけでもなく、かれらにはすでに備わっている。
 かれらは言うだろう、「生まれた時から知ってるよ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み