第11話 サーチライト・シューティング

文字数 1,392文字

 ネイピア(ティッシュの名前はここの地名からきているらしい)にもキウイハウスがあるというので行ってみた。しかもここのキウイハウスでは、キウイが餌を食べている姿が見られるというのだ。

 その給仕の時間に合わせて中へ入る。オチョロハンガのときと同様に中は真っ暗だったので、目が慣れるまでにはしばらく時間が必要だった。中で追いかけっこをしている子供達がドカドカと下半身にぶつかってくる。まったく子供というやつはどこも一緒なのだな。だが痛い、ムカつく。

 ようやく目が慣れてくると、見慣れないキツネザルのような動物が盛んに行ったり来たりしている姿が目に入った。名前を見る。
「オポッサム」
「えー、これがオポッサムだったのか」

 ぼくはなんとも懐かしい友人にばったりと出会ってしまったような気分になった。なにせ「彼」には当然初対面だったものの、南島ではヒッチの道すがら、このオポッサムにはまったくよく出くわしたのだ。ただし、生きているオポッサムを見るのは「彼」が初めてであった。これがどういうことかというと、普段ぼくたちが目にすることのできるオポッサムというのは、いつも車にはねられてペッチャンコになって、道路に張り付いて既に毛皮と化しているヤツなのだ。そろそろ真夏も近づいてきたことだし、特に南島の方では彼らはやたらと道に張り付いているのである。

 オポッサム(ポッサム)というのは和名フクロネズミ、またはクスクスといって、カンガルーとかコアラといった有袋類と呼ばれるオーストラリア特有の動物の一種なのだが、人間がオーストラリアとニュージーランドを行ったり来たりするものだから、いつの間にか彼らもこちらに渡ってきて、すっかりこの土地に定着してしまい、今ではとても数が多くなってしまった、いわゆる帰化動物なのである。

 彼らは夜行性なので、活動はもっぱら夜ということになる。夜ということは、車は当然ヘッドライトを点けて走っている。強い光に向かって飛び出して行ってしまう習性のある彼らは、昼間ぼくたちが国道を歩いている頃には、いつももうすっかりペッチャンコになっていて、その原形をとどめているものは皆無なのであった。

 この夜行性の動物が車のヘッドライトに向かって飛び出し、それをはねる現象を、
「サーチライト・シューティング」
 と呼ぶのだそうだ。このサーチライト・シューティングの犠牲者は圧倒的にオポッサムが多いのだが、ウサギやハリネズミなどもその例外ではなかった。ニュージーランドにハリネズミがいるなんていうことは、道路にでもしょっちゅう張り付いていてくれなければ、知らずに過ごしてきていただろうことは、まず違いない。

 人づてに聞いた話なのだが、以前ホステラー(ユースホステルのお客)で、凄まじい日本人のお姉さんがいたそうだ。彼女は食料調達のため、わざと夜の国道を車で走って、サーチライト・シューティングでウサギをはねる。そしてそのウサギをホステルに持って帰って、料理して食べてしまった。ぼくにその話をしてくれた人もお裾分けを貰ったそうだが、それにしても凄いバイタリティーだと感心する。

 キウイバードは相変わらず、ヒョコヒョコとヒゲダンスを踊っていた。給餌皿に出された食べ物はマカロニのようだったが、彼は二、三本それをついばむと「ミミズの方がいいや」と言わんばかりに、地面にその長いくちばしを突き刺していた。
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