第16話 挑発

文字数 704文字

 その日はどうも天気が良くなく、時々雨が落ちてきた。こんな日にヒッチに出て悲しい目に遭ってしまうことは出きれば避けたい。
 それにもし乗せてくれる人がいても(きっといるけど)、ビショビショの体で車に乗ったりしたら、その親切な人に非常に申し訳ないではないか。以上の理由で、今日はユースホステルでのんびり過ごすことにしていたのだ。

 しかし運悪く、昨日からヤケに挑戦的な態度をとってくる、日本人自転車野郎二人組にキッチンで出会ってしまった。なぜか知らぬが、日本の自転車野郎というのは、他の移動手段で旅行している日本人に対して、異常なほどの偏見というか、敵意を持っている人が多い。

 その二人組はぼくに向かって、
「ヒッチハイカーってのは、たかがこのくらいの天気でも出るのをやめちまうのか」
 とか、
「普通、自転車乗りなら今日くらいのときは必ず出発するよな」
 とか、やたらにぼくを挑発して「フン、この根性なしめ」という態度をあからさまに示してくるのだ。ぼくは挑発に乗った。

 あくまで表面上は冷静を保ちながら、
「いや、まぁ今日くらいの天気なら出ますよ。たぶん雨は大丈夫ですよ、ハッハッハッ」
 などと言ってしまったのである。すると奴等は、
「あっそう。オレ達は今日は出るのはやめておくことにしよう」
 とあっさり言った。べつに勝手にしたらいいけど、なんだか悔しい。
 でもこのまま「やっぱりオレもやめた」なんて言うのはもっと悔しいので、とにかく本当に本格的に雨が降ってこないうちに、ユースホステルを出発した。

 町外れまでバスで出て、空を気にしながら歩き出す。でもどうやら雨の方は大丈夫そうだ。ひたすら歩いて小さな町を二つばかり越えた。
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