79、シャルル王子が修道院に入る(3)

文字数 1,121文字

「ごめんなさい!俺が今日ミサの時間に寝ていたのは院長先生の話がつまらないからではなくて、昨日の夜遅くまで本を読んでいたからです」

 告解室のドアが勢いよく開いて、5,6歳くらいの少年が入って来た。

「勉強嫌いの君が夢中になって読むなんて、なんの本を読んでいたのかね」
「子供向けのハンニバル戦記です。ハンニバルは象を連れてアルプスを越えたのです!」
「君は何か勘違いしているようだが、君を今日告解室に呼び出したのはミサの時間に寝ていたことについて説教するためではない」
「え、違うんですか?まさか俺、院長先生が気づいていないことを自分でしゃべってしまったのですか?」
「ミサの時間に寝ていたことについては後でじっくり説教しよう。君を呼び出したのはそこにいるシャルル王子についてだ」
「シャルル王子・・・あ、わかった。俺の従弟でシャルル6世の子だね。王様の子だから王子と呼ばれている。いいなあ、俺なんて私生児だから財産はもらえないし、こんな陰気臭い修道院に入れられてしまった」
「ジャン、君にはたくさんの説教が必要だが、とりあえずシャルル王子を部屋に案内して欲しい。あ、それから他の者の前では王子と呼ばないように。みんなと同じように名前だけで呼んでくれればいい」
「それ知っている!うっかり王子と呼ぶと悪者に命を狙われるからみんな同じような服を着て名前だけで呼ぶんだよね」

 ジャンは私とシャルル王子が座っているそばに近づいてきた。シャルル王子より少し大きくがっちりとした体つきをしているが、顔立ちはびっくりするほどよく似ていた。

「俺の名前はジャン、オルレアン公の私生児だ。よろしく、シャルル。あれ、このおばさんは?」
「私はシャルル王子の代理母と教育係を務めさせていただきました、リニー家出身のジャンヌ・ド・リュクサンブールと申します」
「ふうん、王子に仕える乳母は貴族出身の名前の長い人がなるんだね。でもここでは長い名前は必要ない。みんな下の名前だけで呼び合う」
「ジャン、これからは寝るとき以外は食事も勉強もいつも一緒になる」
「よかった!今までずっと大人にばかり囲まれてうんざりしていた」
「修道院には他の子はいないのですか?」
「庶民の子はたくさんいますが、同じ敷地内でも別の建物で生活し、顔を合わせたり話をすることは滅多にありません。貴族や王家の血を引いているのは今のところジャンとシャルル王子だけです。ジャン、シャルル王子を部屋に案内してくれ。くれぐれも皆の前では王子とは呼ばないように・・・」
「わかっているよ。シャルル、行こうぜ。俺の大事なハンニバル戦記、読み終わったらお前に貸してやるよ、それから・・・」

 シャルル王子はジャンに連れられて告解室を出て行った。


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